第17話 お前みたいなガキくさい嘘と一緒にするな

文字数 991文字

「なに……言ってんだ……。なに言ってんだお前……」
 自分の聴細胞が異常をきたしたのか、それともヒロの言語能力が倒錯してしまったのか。どちらでもよかった。だがヒロの顔を見る限りそれが冗談ではないという事が分かる。
ケンジのリアクションを気にすることなくヒロは滔々と語る。
「あのとき目撃者はいなかった。だが人体模型の指紋やら情況証拠なんかであのとき鈴村を殺したのが俺とお前とタカシだったってのはすぐに分かるだろうな。でもそれがなんだってんだ。お前は学区内中に知られている嘘つき野郎で問題児。片や俺は先生たちには成績優秀な優等生として通ってるんだぞ。それに表だって俺とお前がつるんでることを知ってるのはタカシだけだ。
だったらまだ弁解できるんだよ。俺はお前に脅されて無理やりに協力させられたんだってな」
 ヒロは悪魔のように禍々しい視線を前髪の間から覗かせていた。睨まれたケンジは自らの死を悟った小動物のようにその場を動けなかった。
「俺たちみたいな未成年の事件では、身近な人の証言を判断材料にする傾向がある警察は一体どっちの言い分を信じるんだろうな? ケンジ」
「……」ケンジは返す言葉を探せずにいた。ヒロは続ける。
「何のために今まで良い子ちゃんを演じてきたと思ってんだ。お前みたいに何の将来性もないバカとは違うんだよ。
俺がお前と一緒にいたのは単に面白かっただけだ。お前の嘘に翻弄される奴のバカな顔と、騙せたことに対して優越感に浸るもっとバカなお前の顔を見るのがな」
狡猾な笑みを浮かべてヒロは途方に暮れているケンジを見やる。そして反応は望めないと思ったのかヒロは教室へと帰ろうとする。だが――
「待ってくれよ」それをケンジは引き留めた。
「なんだよ?」
「じゃあ何か? お前は今まで俺たちに嘘をついてたってのか。俺たちを騙してたってのか。俺たちの友情は……嘘だったってのか?」
 ケンジは自分の言っていることがどれだけ恐ろしいことかを自覚したうえで、――震える声でそう言った。
 それを聞いてヒロは含みのある笑いを見せる。
「ああ、そうだよ」
 ケンジにとって最も聞きたくなかった答えをヒロはさも当たり前のように言ってのけた。
「なんなんだよ……」ケンジは拳を強く握りしめる。「結局お前も……俺と同じ嘘つきじゃないか……」
「……お前みたいなガキくさい嘘と一緒にするな」
 そう言い捨てるとヒロは教室へと歩を進めた。
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登場人物紹介

鈴村里香 裏教育委員会員。教育実習生として潜入。

ケンジ 小学六年生。嘘をつくことが癖。

タカシ 真面目な小学六年生。ケンジの友達。

ヒロ 小学六年生。

深江ゆかり 鈴村教育実習生の同期

レイピア

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