第10話 ニュース速報
文字数 866文字
形容しがたい吐き気を催しながらケンジはなんとか家に着くことができた。
「あ、おかえり」
専業主婦の母親がいつも通り家にいる。それは何でもない日常の一ページなのに、なぜかケンジにはそう思えなかった。
できれば今日だけはいて欲しくなかった。それは朝帰りしてきた娘が父親と顔を合わせたくないその心理に似ていた。
「あれ? どうしたの、顔色悪いわよ」
母親は伏せていたケンジの顔を覗いてきた。
「な、何でもない。部屋にいるから」
青ざめた顔をしたケンジはバツが悪そうにそそくさと部屋への階段を上っていった。部屋に入ると鞄を投げ出し、ケンジはベッドへと力が抜けたように飛び込み掛布団にくるまった。自分という存在をこの世から消すかのように。
一体どれくらいそうしていただろうか。五十光年ほど先に追いやっていたケンジの思考は母親の、「ご飯よー」という優しげな声で呼び戻された。
ケンジはゾンビのようにのっそりと上体を上げた。
(もうそんな時間……。俺いま寝てた? もしかして今までのも全部夢だったとか?)
ケンジはベッドから這い出て、母親が待つリビングへと階段を降りる。
(そうだよ。そうに決まってる。今までのは全部夢だったんだよ。俺が人を殺すわけない)
ケンジは食卓につき、晩御飯を食す。食を通して生きているという事を実感できる。これが現実だという事が如実に理解できていく。
(当たり前だ。悪い夢だったんだよ)
そしてケンジは何気なくテレビを付けた。放送されていたのは夕方のニュース。いつも通り物騒な事件を報道している。
これを見ていつも思う。こんな凄惨な事件は現実には、少なくとも自分が生きる範囲では起こりえない非現実なもの。ただ被害者になった人は運が悪かったのだと嘆くほかないもの。自分とは関係のない人が、見たこともない遠くの場所で死んだだけのもの。
まるで他人事。
そう思っていたのに――
『今日、夕方五時ごろ××市立○○小学校で鈴村里香教育実習生の遺体が発見されました。遺体は頭から血を流してお――』
というところでケンジはリモコンでテレビを消した。
「あ、おかえり」
専業主婦の母親がいつも通り家にいる。それは何でもない日常の一ページなのに、なぜかケンジにはそう思えなかった。
できれば今日だけはいて欲しくなかった。それは朝帰りしてきた娘が父親と顔を合わせたくないその心理に似ていた。
「あれ? どうしたの、顔色悪いわよ」
母親は伏せていたケンジの顔を覗いてきた。
「な、何でもない。部屋にいるから」
青ざめた顔をしたケンジはバツが悪そうにそそくさと部屋への階段を上っていった。部屋に入ると鞄を投げ出し、ケンジはベッドへと力が抜けたように飛び込み掛布団にくるまった。自分という存在をこの世から消すかのように。
一体どれくらいそうしていただろうか。五十光年ほど先に追いやっていたケンジの思考は母親の、「ご飯よー」という優しげな声で呼び戻された。
ケンジはゾンビのようにのっそりと上体を上げた。
(もうそんな時間……。俺いま寝てた? もしかして今までのも全部夢だったとか?)
ケンジはベッドから這い出て、母親が待つリビングへと階段を降りる。
(そうだよ。そうに決まってる。今までのは全部夢だったんだよ。俺が人を殺すわけない)
ケンジは食卓につき、晩御飯を食す。食を通して生きているという事を実感できる。これが現実だという事が如実に理解できていく。
(当たり前だ。悪い夢だったんだよ)
そしてケンジは何気なくテレビを付けた。放送されていたのは夕方のニュース。いつも通り物騒な事件を報道している。
これを見ていつも思う。こんな凄惨な事件は現実には、少なくとも自分が生きる範囲では起こりえない非現実なもの。ただ被害者になった人は運が悪かったのだと嘆くほかないもの。自分とは関係のない人が、見たこともない遠くの場所で死んだだけのもの。
まるで他人事。
そう思っていたのに――
『今日、夕方五時ごろ××市立○○小学校で鈴村里香教育実習生の遺体が発見されました。遺体は頭から血を流してお――』
というところでケンジはリモコンでテレビを消した。