第15話 深江ゆかりは知っている
文字数 976文字
ケンジは迷うことなくヒロへと肉薄し、許可も取らずに手を引っ張って廊下へと連れて
いく。とりあえずひと気のないところへ行こうと歩を進める。
その道中、廊下を歩いていると目の前からある女が近づいてきた。
(あれは、鈴村と同じ教育実習生の……確か名前は深江(ふかえ)ゆかり。同じ中学だとかで仲が良いんだっけか……)
ケンジは二人が仲良く歩いているところを何度か見かけたことがあったためよく覚えていた。だが今は当然、鈴村と歩いてなんかいない。
ゆかりは清楚な黒髪を揺らしながらこちらへと近づいてくる。
ケンジは罪悪感からか顔を伏せてやり過ごそうとした。だがもう少しで素通りできるというところで深江が話しかけてきた。
「あれー?」
そう言うゆかりの目は満月のように真ん丸だった。
(やばい、もしかしてこいつ、あの事件のことを――)
とケンジは一瞬懸念したが、ゆかりの目は殺人者ではなくヤンチャな男の子を見るそれだった。
「もうすぐホームルーム始まるってのに二人してどこに行くの? もしかして二人で何かいかがわしいことを?」
そんな拍子抜けな発言にケンジはわずかに意表を突かれたが、
「い、いやそんなんじゃないですよ。ちょっと二人でトイレにでも行こうかと」
「そっか。……ま、どうせ嘘だろうけど」
「え、」
「どうせ二人してサボろうとかそういう魂胆でしょ。ね、そうなんでしょ?」
「あ、はいそうです」
「やっぱりか、そうだよね。うん。私も学生時代よくやったよ。あ、今でも学生なんだった。教育実習生ってそうだよね。そうだった。……まあ、あれだ」深江は二人の肩を叩いて、「サボりもほどほどにね。私はそれを止めないよ。なぜなら私はそういう青春じみたことが大好きだからだ。それじゃあねー」
可愛らしく手を振ってゆかりは自分が受け持つ教室へと入っていった。
「なんなんだよ……」そう言いながらもケンジは内心ほっとしていた。
「なんなんだよはこっちだよ」腕を掴まれていたヒロはケンジの手を振りほどいた。「いつまでも掴んでんじゃねぇよ」
「あ、わりぃ」
「ったくこんなとこまで呼び出してなんだってんだ」
「いや、ここじゃまだ人が来るかも知れないから。あっちの方に」
「ああ、踊り場かよ。あそこならこの時間は人は来ねぇか」
察しが良いヒロは自分が先導してその場所へと歩を進める。ケンジも後れを取らぬようそれについていく。
いく。とりあえずひと気のないところへ行こうと歩を進める。
その道中、廊下を歩いていると目の前からある女が近づいてきた。
(あれは、鈴村と同じ教育実習生の……確か名前は深江(ふかえ)ゆかり。同じ中学だとかで仲が良いんだっけか……)
ケンジは二人が仲良く歩いているところを何度か見かけたことがあったためよく覚えていた。だが今は当然、鈴村と歩いてなんかいない。
ゆかりは清楚な黒髪を揺らしながらこちらへと近づいてくる。
ケンジは罪悪感からか顔を伏せてやり過ごそうとした。だがもう少しで素通りできるというところで深江が話しかけてきた。
「あれー?」
そう言うゆかりの目は満月のように真ん丸だった。
(やばい、もしかしてこいつ、あの事件のことを――)
とケンジは一瞬懸念したが、ゆかりの目は殺人者ではなくヤンチャな男の子を見るそれだった。
「もうすぐホームルーム始まるってのに二人してどこに行くの? もしかして二人で何かいかがわしいことを?」
そんな拍子抜けな発言にケンジはわずかに意表を突かれたが、
「い、いやそんなんじゃないですよ。ちょっと二人でトイレにでも行こうかと」
「そっか。……ま、どうせ嘘だろうけど」
「え、」
「どうせ二人してサボろうとかそういう魂胆でしょ。ね、そうなんでしょ?」
「あ、はいそうです」
「やっぱりか、そうだよね。うん。私も学生時代よくやったよ。あ、今でも学生なんだった。教育実習生ってそうだよね。そうだった。……まあ、あれだ」深江は二人の肩を叩いて、「サボりもほどほどにね。私はそれを止めないよ。なぜなら私はそういう青春じみたことが大好きだからだ。それじゃあねー」
可愛らしく手を振ってゆかりは自分が受け持つ教室へと入っていった。
「なんなんだよ……」そう言いながらもケンジは内心ほっとしていた。
「なんなんだよはこっちだよ」腕を掴まれていたヒロはケンジの手を振りほどいた。「いつまでも掴んでんじゃねぇよ」
「あ、わりぃ」
「ったくこんなとこまで呼び出してなんだってんだ」
「いや、ここじゃまだ人が来るかも知れないから。あっちの方に」
「ああ、踊り場かよ。あそこならこの時間は人は来ねぇか」
察しが良いヒロは自分が先導してその場所へと歩を進める。ケンジも後れを取らぬようそれについていく。