第1話 人の理から反するもの
文字数 536文字
裏教育委員会
この世界にはまだ知られていないものが数多くある。まだ人間が関知していない前人未到の地がある。まだ観測できていない世界の果てがある。まだ見たこともない暗黒の空間がある。
人は自分が培った常識でしか物事をはかれない。そのものさしから外れたものは認知できない。それが人間の性であり、人間を人間たらしめる要因である。
だからこそ男は混乱した。
教師生活二十五年。酒の席でいっぱしの教育論を語れるくらいには教師という職務を全うしてきたと自負していた。しかしそんな男が狼狽するほどには目の前にいる存在の常軌は逸していた。
信じられなかった。未だこの教育という世界に自分が関知しえないものが存在しているという事に。
そして男の焦燥を落ち着かせるかのように目の前の女は言った。
「大丈夫です。安心してください。言いたいことは分かります。しかし私はその問いには答えません。なぜならその問いに答えたところであなたはその事象を知るだけで理解はできないのですから」
「じゃあいったいどういう理由で……」
小皺が刻まれた顔に脂汗をにじませながら男は言った。
そしてそれとは対照的に達観したように女は言った。
「あなたの生徒を粛清するためですよ」
豪奢に彩られた校長室に深く重い静寂が落とされた。
この世界にはまだ知られていないものが数多くある。まだ人間が関知していない前人未到の地がある。まだ観測できていない世界の果てがある。まだ見たこともない暗黒の空間がある。
人は自分が培った常識でしか物事をはかれない。そのものさしから外れたものは認知できない。それが人間の性であり、人間を人間たらしめる要因である。
だからこそ男は混乱した。
教師生活二十五年。酒の席でいっぱしの教育論を語れるくらいには教師という職務を全うしてきたと自負していた。しかしそんな男が狼狽するほどには目の前にいる存在の常軌は逸していた。
信じられなかった。未だこの教育という世界に自分が関知しえないものが存在しているという事に。
そして男の焦燥を落ち着かせるかのように目の前の女は言った。
「大丈夫です。安心してください。言いたいことは分かります。しかし私はその問いには答えません。なぜならその問いに答えたところであなたはその事象を知るだけで理解はできないのですから」
「じゃあいったいどういう理由で……」
小皺が刻まれた顔に脂汗をにじませながら男は言った。
そしてそれとは対照的に達観したように女は言った。
「あなたの生徒を粛清するためですよ」
豪奢に彩られた校長室に深く重い静寂が落とされた。