第26話 金がすべてではないが、すべてを手に入れるためには金が必要
文字数 1,093文字
裏門の前にはいかにもな金持ち、もしくはヤクザが乗っていそうな黒塗りの車が停まっていた。
鈴村は辺りを見回す。
「あれ、あいつは?」
「こちらです」
レイピアはコンコンと後部座席の窓をノックした。
その合図で少年は出てきた。
「おっす」鈴村は少年に話しかける。「ヒロ君」
前髪が長く表情が読み取りにくいその少年はタカシとケンジとつるんでいたヒロだった。
目は見えないがおそらくその視線は鈴村に向けられている。
「わたしを屋上に誘う作戦をあんたがケンジに伝えたことによって事がうまく進んだよ。自分の嘘で人を死なせたという罪悪感を抱かせるのは何とも手っ取り早い粛清だからね。あれでもうあいつはむやみやたらな嘘をつくことはないだろう。あんたがいなけりゃこの作戦は成り立たなかった。ありがとね」
と鈴村は言ったがヒロはそんな言葉など無意味というように右手を差し出していた。まるで何かをねだる子供の様に。
「ん? 何かな? 握手?」
「分かってるでしょ」無感動な声でヒロは呟く。「僕が欲しいのはそんなねぎらいの言葉じゃない。そんなもののためにあんたの下に付いたわけじゃない」
「ああ、そうかよ。はいはい」
鈴村は懐からブランド物の財布を取り出し、その中から適当に抜き取った紙幣数枚をヒロへと渡した。
「その年にして金の何たるかが分かっているか」
「当たり前じゃないですか。金があれば何でもできる。愛も買えるし、力も買えるし、友情だって買えるんですから」そう言いながらヒロはまるでベテラン銀行員のように紙幣を数えていた。「……意外に少ないんですね」
「なに言ってんだ。小六のガキからすれば、世の中が思い通りになる額と錯覚できるくらいには弾んだつもりだが」
「僕をその辺のバカと一緒にしないでください。成人男性が三か月過ごせるくらいの額しかないじゃないですか。まあ僕は別に大したことはしてないんでそこまで多くは求められませんが」
「よく分かってんじゃねぇか。子供の様なわがままをほざかないところを見るとお前が他の奴らとは違うことは如実に分かる。どうだ? 将来、裏教に来る気はないか?」
「それは稼げるんですか?」
「ああ、稼いでいるという概念がなくなるくらいには稼げるぞ。ちなみに入るために必要なことはただ一つ。どうやって入るのかを解明することだ」
「なるほど。秘密の組織は入る方法すらも、審査基準も秘密だと。……そうですね、考えておきます。ではもう用もないので失礼します」
そう言うとヒロは一礼して、背を向けた。慇懃な態度や、右手に握られた分厚い紙幣はなんとも子供らしくない。
「これは私の独り言だが」ヒロの背中に鈴村は語り掛ける。
鈴村は辺りを見回す。
「あれ、あいつは?」
「こちらです」
レイピアはコンコンと後部座席の窓をノックした。
その合図で少年は出てきた。
「おっす」鈴村は少年に話しかける。「ヒロ君」
前髪が長く表情が読み取りにくいその少年はタカシとケンジとつるんでいたヒロだった。
目は見えないがおそらくその視線は鈴村に向けられている。
「わたしを屋上に誘う作戦をあんたがケンジに伝えたことによって事がうまく進んだよ。自分の嘘で人を死なせたという罪悪感を抱かせるのは何とも手っ取り早い粛清だからね。あれでもうあいつはむやみやたらな嘘をつくことはないだろう。あんたがいなけりゃこの作戦は成り立たなかった。ありがとね」
と鈴村は言ったがヒロはそんな言葉など無意味というように右手を差し出していた。まるで何かをねだる子供の様に。
「ん? 何かな? 握手?」
「分かってるでしょ」無感動な声でヒロは呟く。「僕が欲しいのはそんなねぎらいの言葉じゃない。そんなもののためにあんたの下に付いたわけじゃない」
「ああ、そうかよ。はいはい」
鈴村は懐からブランド物の財布を取り出し、その中から適当に抜き取った紙幣数枚をヒロへと渡した。
「その年にして金の何たるかが分かっているか」
「当たり前じゃないですか。金があれば何でもできる。愛も買えるし、力も買えるし、友情だって買えるんですから」そう言いながらヒロはまるでベテラン銀行員のように紙幣を数えていた。「……意外に少ないんですね」
「なに言ってんだ。小六のガキからすれば、世の中が思い通りになる額と錯覚できるくらいには弾んだつもりだが」
「僕をその辺のバカと一緒にしないでください。成人男性が三か月過ごせるくらいの額しかないじゃないですか。まあ僕は別に大したことはしてないんでそこまで多くは求められませんが」
「よく分かってんじゃねぇか。子供の様なわがままをほざかないところを見るとお前が他の奴らとは違うことは如実に分かる。どうだ? 将来、裏教に来る気はないか?」
「それは稼げるんですか?」
「ああ、稼いでいるという概念がなくなるくらいには稼げるぞ。ちなみに入るために必要なことはただ一つ。どうやって入るのかを解明することだ」
「なるほど。秘密の組織は入る方法すらも、審査基準も秘密だと。……そうですね、考えておきます。ではもう用もないので失礼します」
そう言うとヒロは一礼して、背を向けた。慇懃な態度や、右手に握られた分厚い紙幣はなんとも子供らしくない。
「これは私の独り言だが」ヒロの背中に鈴村は語り掛ける。