第7話 人体模型と落ちる先生は夕やみに彩られ
文字数 766文字
鈴村はマントをはぎ取りその人影の顔をあらわにした。しかし露わにされたのはいつも前髪で隠れているヒロの顔ではなかった。
「え……」
そこにあったのは、いつもは理科室に置かれている人体模型だった。
不気味で無情な顔がよりいっそうの畏怖の念を鈴村に抱かせた。
まるでグラデ―ションのように彼女の表情は焦りから恐怖の色へと変わっていった。
それがケンジの感情のタガを外させた。
「ははははははははは!」
学区内全体に響き渡るような大音声でケンジは高らかに笑った。自分の策に騙された鈴村をバカにするかのように。
「騙されてやんのー。バカだ、バカだ」
ケンジは鈴村を指さし腹を抱えて笑った。それを鈴村は何とも形容しがたい複雑な顔で見やっていた。
その時のタカシの感情としては強いて言うなら鈴村の方に近かったかもしれない。タカシはこの時確信した。自分たちがやっていることはいけないことのなのだと。ケンジのように笑うことができない自分を知覚して、タカシはようやくそのことに気付いた。
しかしそれはもう手遅れだった。
突然のことだった。強風が吹いたわけじゃない。地震が起こったわけじゃない。だがそれは起こってしまった。
高いヒールが災いしたのか、鈴村は何を間違ったか足を踏み外してしまった。
「「え、」」
そんな間抜けな声を発したのは二人の方だった。
予想していなかったわけじゃない。だがあるわけがないと高を括っていた事象がいま目の前で起こってしまった。
右足は空中へと投げ出され、自立していた人間は何もない空間へと投げ出される。右手に持っていたマントが大きく翻るがそれがパラシュート代わりになるわけもない。
藁にもすがる思いで鈴村は左手を伸ばした。しかし掴んだのは固定もされていない近くにあった人体模型だけ。
鈴村はその模型を道連れにして落ちていった。
「え……」
そこにあったのは、いつもは理科室に置かれている人体模型だった。
不気味で無情な顔がよりいっそうの畏怖の念を鈴村に抱かせた。
まるでグラデ―ションのように彼女の表情は焦りから恐怖の色へと変わっていった。
それがケンジの感情のタガを外させた。
「ははははははははは!」
学区内全体に響き渡るような大音声でケンジは高らかに笑った。自分の策に騙された鈴村をバカにするかのように。
「騙されてやんのー。バカだ、バカだ」
ケンジは鈴村を指さし腹を抱えて笑った。それを鈴村は何とも形容しがたい複雑な顔で見やっていた。
その時のタカシの感情としては強いて言うなら鈴村の方に近かったかもしれない。タカシはこの時確信した。自分たちがやっていることはいけないことのなのだと。ケンジのように笑うことができない自分を知覚して、タカシはようやくそのことに気付いた。
しかしそれはもう手遅れだった。
突然のことだった。強風が吹いたわけじゃない。地震が起こったわけじゃない。だがそれは起こってしまった。
高いヒールが災いしたのか、鈴村は何を間違ったか足を踏み外してしまった。
「「え、」」
そんな間抜けな声を発したのは二人の方だった。
予想していなかったわけじゃない。だがあるわけがないと高を括っていた事象がいま目の前で起こってしまった。
右足は空中へと投げ出され、自立していた人間は何もない空間へと投げ出される。右手に持っていたマントが大きく翻るがそれがパラシュート代わりになるわけもない。
藁にもすがる思いで鈴村は左手を伸ばした。しかし掴んだのは固定もされていない近くにあった人体模型だけ。
鈴村はその模型を道連れにして落ちていった。