第24話 同期は同志
文字数 1,092文字
鈴村はその足で小学校の裏門へと向かった。その道中に、ある女と出会う。
「お、ゆかり」
目の前で壁にもたれかかって佇んでいたのは自分と同じくこの小学校に派遣されて来た深江ゆかりだった。もちろん、鈴村と同様に裏教のメンバーである。
「何やってんの? 今は一時間目だよ。教室にいなくていいの?」
「いいんだよ。別に私がいなくても何ら問題ないんだし。あ、ちなみに明日からはわたしあんたがいた三組に移動するから」
「悪いね。あいつらの経過観察任せちゃって」
「誰かがやらなきゃいけないことだかんね。ま、私が一番適任だろうとは思ってたけど。ああ、めんどくさい。なんであと一週間もこんなガキどもの御守りなんかしなきゃいけないんだよ」
「あー、ゆかり。子供嫌いなんだっけ?」
「そうだよ。だからこの裏教に入ったってのもあるけどね。里香はもう抜けるの?」
「うん。一応わたしは死んでることになってるから。いやー助かったよ。あんたが死体の役してくれなかったらわたしが死んだフリする羽目になってたからね」
「それくらいしなさいよ」
「血のりって結構落ちないから嫌なんだよね」
「ったく、未だになんであんたがわたしらの上司なのかが甚だ疑問だよ。委員の誰かに枕でもしたの?」
「するわけないでしょ。確かにわたしは思春期男子垂涎の美貌を誇っているけど出世のために女を使うほど落ちぶれちゃいないよ。てかあいつらはそんな人間染みた性に興味なんてないだろうしね。『暴』を持った私たちは人間の本能を削ぎ落した傀儡のようなものだからさ。ゆかり、あんたはこんな風になるなよ」
「……そういう存在……結構憧れるけどね」
「確かにわたしも昔はそうだったよ。でもいざなってみると虚しいもんだよ。これだけの力を持っているのに何もできない自分がほんとに情けなく思えてしまうからね」
鈴村は何を思うのか天を仰いだ。頭上では群れから離れた鳥が一羽寂しく空を飛んでいた。仲間を探しているのか、止まり木を探しているのか、その鳥は目的地を見失ったかのように辺りを浮遊していた。鈴村の心象はそれによく似ていた。ゆかりもそれを知っていた。
「だとしても」ゆかりは鈴村に背を向け、「わたしは上に行くよ。あんたひとりじゃ心配だからさ」
そう言うとゆかりは歩みを進め、自分の教室へと帰っていった。鈴村は旅立つ娘を見送る母親のような目でその小さな背中を見つめていた。
「ゆかり!」鈴村は言った。「一緒にこの世界ひっくり返そうな!」
ゆかりはその声に振り向くことはなく、背中を向けながら手を振って反応したが、すぐに角を曲がってその姿は見えなくなった。
鈴村は安心からか少しだけ口角を上げた。
「お、ゆかり」
目の前で壁にもたれかかって佇んでいたのは自分と同じくこの小学校に派遣されて来た深江ゆかりだった。もちろん、鈴村と同様に裏教のメンバーである。
「何やってんの? 今は一時間目だよ。教室にいなくていいの?」
「いいんだよ。別に私がいなくても何ら問題ないんだし。あ、ちなみに明日からはわたしあんたがいた三組に移動するから」
「悪いね。あいつらの経過観察任せちゃって」
「誰かがやらなきゃいけないことだかんね。ま、私が一番適任だろうとは思ってたけど。ああ、めんどくさい。なんであと一週間もこんなガキどもの御守りなんかしなきゃいけないんだよ」
「あー、ゆかり。子供嫌いなんだっけ?」
「そうだよ。だからこの裏教に入ったってのもあるけどね。里香はもう抜けるの?」
「うん。一応わたしは死んでることになってるから。いやー助かったよ。あんたが死体の役してくれなかったらわたしが死んだフリする羽目になってたからね」
「それくらいしなさいよ」
「血のりって結構落ちないから嫌なんだよね」
「ったく、未だになんであんたがわたしらの上司なのかが甚だ疑問だよ。委員の誰かに枕でもしたの?」
「するわけないでしょ。確かにわたしは思春期男子垂涎の美貌を誇っているけど出世のために女を使うほど落ちぶれちゃいないよ。てかあいつらはそんな人間染みた性に興味なんてないだろうしね。『暴』を持った私たちは人間の本能を削ぎ落した傀儡のようなものだからさ。ゆかり、あんたはこんな風になるなよ」
「……そういう存在……結構憧れるけどね」
「確かにわたしも昔はそうだったよ。でもいざなってみると虚しいもんだよ。これだけの力を持っているのに何もできない自分がほんとに情けなく思えてしまうからね」
鈴村は何を思うのか天を仰いだ。頭上では群れから離れた鳥が一羽寂しく空を飛んでいた。仲間を探しているのか、止まり木を探しているのか、その鳥は目的地を見失ったかのように辺りを浮遊していた。鈴村の心象はそれによく似ていた。ゆかりもそれを知っていた。
「だとしても」ゆかりは鈴村に背を向け、「わたしは上に行くよ。あんたひとりじゃ心配だからさ」
そう言うとゆかりは歩みを進め、自分の教室へと帰っていった。鈴村は旅立つ娘を見送る母親のような目でその小さな背中を見つめていた。
「ゆかり!」鈴村は言った。「一緒にこの世界ひっくり返そうな!」
ゆかりはその声に振り向くことはなく、背中を向けながら手を振って反応したが、すぐに角を曲がってその姿は見えなくなった。
鈴村は安心からか少しだけ口角を上げた。