第21話 校長室は緊張の巣窟

文字数 1,022文字

「先生なんてやめてくださいよ。私は正規の教員免許を持っているわけではないんですから」
「いえいえ私からすれば先生のようなものですよ。なんせあの組織から派遣されているんですから。それに、聞けばあなたは――」
「やめましょーやそんな話は。ここは確かに職場かもしれませんが間におちょこを挟めばそこは酒の席。仕事の話はなしですぜ。まあまあ一杯」
 鈴村は校長のおちょこに酌をする。
「おお、これは光栄です」
 傍から見ればそれは女が自分の出世のため上司に接待をしているように見えたかもしれないが、立場は明らかに逆。年功序列のねの字もなかった。
 そこに疑問を呈する無知な男がひとり。
「すみません」田崎が二人の話に割って入った。
「何だね、田崎君。やっぱり君も勤務中に酒を飲むという背徳感に毒されたくて――」
「違います。私はただ疑問に思いまして……」
 その発言で校長は察した。
「……田崎君。君にはこの前話したじゃないか」
「あんな抽象的な説明では分かりません。もう一度説明して欲しいのです」田崎は視線を移動させた。「この鈴村里香と名乗る方はいったい誰なんですか? いや、いったい何なんですか?」
「んー、説明といってもねー。私程度のものが無闇に説明してもいいものではないんだよ。校長ごときのレベルではあんな抽象的な説明までが関の山でね」
「ならば鈴村里香本人に訊きます。あなたはいったいなんなんですか?」
 田崎は射抜くような視線を鈴村に向ける。だがそんな視線に彼女は臆することもなく、口を開く。
「なかなかに知的好奇心が豊富ですね。さすが教育という領域に身を置く御仁だ。ちなみに校長、この田崎教諭のキャリアは?」
「彼は教職を二十五年も続けているベテランです。過去には高校や中学も受け持ったことがあり、ここに来る十年前までは各学校を転々としていましたが今ではこの学校に骨をうずめる覚悟を持っています。もうすぐ教頭試験を受けるので、それもおそらく合格してくれるでしょう。こりゃあ、いずれ校長の座も明け渡さなくてはならないですな」
「ならば遅かれ早かれ知ることにはなるんですね。じゃあ、まいっか」
 おそらくそんな軽い感じで決めていいことではないのだろうが鈴村はまるで適当な調子でそう言った。しかしそれとは相対して鈴村から醸成される雰囲気はそんな軽いものではなかった。
「田崎教諭。この世には触れてはいけない闇というものがある。そして誰にも知られていない秘密の組織なるものもあるんですよ」
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登場人物紹介

鈴村里香 裏教育委員会員。教育実習生として潜入。

ケンジ 小学六年生。嘘をつくことが癖。

タカシ 真面目な小学六年生。ケンジの友達。

ヒロ 小学六年生。

深江ゆかり 鈴村教育実習生の同期

レイピア

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