第28話 友達を助けるために友情を捨てる

文字数 998文字

……ヒロ、お前は友情を捨て、金を得たことに後悔はないのか?」

 その言葉にヒロはわずかにだが肩を震わせた。しかし平静を装うように言葉を紡ぐ。
「……は? なに言ってるんですか。後悔なんてないに決まってるでしょ。あんな、程度の低い嘘つき野郎との友情なんて、はなっからありませんよ。ただ一緒にいたのはあいつの馬鹿面が面白かっただけです。さっさと縁を切って正解でしたよ。金も手に入れたし一石二鳥です。……よかったですよ……ほんとに……」

「そうか、じゃあなんで……なんでお前は泣いているんだ?」

 見るとヒロの背中はわなわなと震えていた。拳は固く握られていた。体の中で抑えられている嗚咽がわずかに鈴村の耳を撫でていく。
 顔を見ずとも分かる。ヒロが泣いていることも、ヒロの心中も。
「お前は後悔しているんじゃないか? ケンジとの友情を壊してしまったことに。そしてタカシの言葉を聞いて、俺もそうしていればと思っているんじゃないのか?」
「は? 思ってねぇよ。別れられてせいせいしてるよ」
「お前はケンジとあんなにも仲が良かったのに」
「だから上辺だけのもんだったんだよ!」
「違うな」断ずる鈴村の言葉はヒロの心の深層へと入り込む。「お前のケンジへの友情は本物だった。それがたとえ悪行を介したものだったとしてもお前ら二人の間には確固たる友情というものが築かれていたはずなんだよ」
「なんでそんなことが分かる」
 ヒロは鈴村の方へと振り向いた。
「教育者としての勘。そして、女の勘ってやつさ」
 子どもをバカにするような鈴村の表情に、そして大人の独りよがりな言い分に、ヒロは怒りを覚える。
「そんなもんで僕たちを語るな!」
 腹の底から、心の底から吐き出された怒号。ヒロの深層にある真相の部分。
 それを聞き、鈴村はにやりと笑う。
「いまので分かったよ。やっぱりもってお前はケンジの友達だった。だが悲しいかな、なぜかお前はそれを金で売ってしまった。いったいなぜだろう? 確かさっきお前は金を貰えて且つ悪い友達であるケンジと縁を切れたことで『一石二鳥』という言葉を使ったが、もしかしたらその『一石二鳥』という意味は別にあるんじゃないのか? 

例えば金を貰えて、なお且つこれでケンジを更生させることができるという意味とか。違う?」

鈴村はまっすぐな強い視線でヒロを見つめた。ヒロはその視線から逃げるように顔を俯かせ、何も答えない。何も答えられなかった。
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登場人物紹介

鈴村里香 裏教育委員会員。教育実習生として潜入。

ケンジ 小学六年生。嘘をつくことが癖。

タカシ 真面目な小学六年生。ケンジの友達。

ヒロ 小学六年生。

深江ゆかり 鈴村教育実習生の同期

レイピア

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