2. 劇的な再会
文字数 1,745文字
何か名前を叫んだようなそれは、確かに上から聞こえてきた。
通行人たちは驚いて、一斉 に頭上に目を向ける。
ベランダから身を乗り出して、洗濯竿 に手を伸ばしている小さな体が見えた・・・!
そのすぐあと、声を上げた母親らしき女性があわててベランダに出て来た。しかし一歩間に合わず、子供の体は柵 をすり抜けてしまった。今にも落ちてしまいそうだ。
下にいる人々はみな一緒になって周囲を見回し、落下しようものなら何か受け止めることができるものはないかと、大あわてで探しだした。下手に体を張って助けようものなら、逆に命はない。
けたたましい悲鳴が響き渡った。
また反射的に見上げる人々。
子供が落ちてくる・・・!
「道を空けてください!」
そんな中、そう叫びながら駆け出した者がいた。さらには、あわや地面に叩きつけられるという直前に、その子の下に滑り込むようにして手を伸ばしたことで、その命を救ったのである。
抜群の瞬発力と度胸と正確さで、見事その子を受け止めた青年。彼が本来何者であるかなど人々は知らないが、彼は並々ならぬ強靭 な躰 と精神を兼 ね備えた戦士、これまで幾度 と無く過酷な場や危険を実力で潜 り抜けてきた男だった。
だがやはり、四階から落ちた子供の重量、その衝撃は大きく、青年は耐えきれずに、その子を抱きかかえたまま肩や腕を強打して転がった。
青年は激痛で起き上がることも、体を動かすことすらできなかったが、ひどく痛めた腕でもしっかりとその子を抱き締めている。
周りにいる人々がわっと駆け寄ってくる。彼のことを、たちまち集まってきた多くの者が知っていた。
どうにか痛みが引いてゆくと、青年は一人の男性に支えてもらいながら、徐々に体を起こした。
「こりゃたまげた、角の旅館でフィルート(この世界の木管楽器)を吹いてる綺麗な兄ちゃんだぞ。」と、その男性は言った。
驚愕 に近いざわめきが起こった。彼が今やってのけたことを、その美しい顔から想像できる者など誰もいなかったからだ。
「君、大丈夫かね。」
また別の紳士が、そう声をかけてきた。
青年は、自分のことよりも、抱いている子供の顔を心配そうにのぞき込む。二才になったか、ならないか・・・くらいのその男の子は、さすがに死ぬほど驚いたのだろう、気絶していた。頭も体も心も急成長して、できることがいっきに増えるお年頃だ。
「ええ、でも、この子が・・・。衝撃を和らげることはできましたが、体を打っています。すぐに医者に診 せた方がいいでしょう。」
「あんたも診てもらった方がいい。おい、医者だ!」
すぐに、ほかの人々も加わった。
「誰か医者を呼んできてくれ!」
すると、すぐに反応があった。だが、その声に応えて人々を掻き分けながら現れたのは、どう見てもまだ十代の少年。
「はーい、はいはい、医者です!どうしたの?」
はっきりそれだと名乗りながらやってきた黒髪の少年は、人垣 から輪の中心に飛び込むや、患者と思 しき青年を見てぽかんと口を開けた。
「エミリオ!」
「やあ、カイル。よかった、君がいてくれたとは。」
そのあと、この青年エミリオには、懐 かしい面々が次々と姿を現した。
「おいカイル、何事だ。」
人々の間を謝りながら強引 に縫って進んできたギルは、そばに来るなり砂まみれのエミリオを見て目を丸くした。
「エミリオ、お前どうしたんだ。」
続いてリューイが。
「あっ、エミリオだ!」
「なんだ、どうした・・・あ、エミリオ。」と、レッド。
「ねえ、ちょっと皆、ミーアがいたわ!」
輪の外で落ち着かい様子でいたミーアを、今度はシャナイアが見つけて連れてきた。
「やだ、なに !? どうしたの、エミリオ!」
「この子がベランダから転落したんだ。カイル、この子は大丈夫かい。」
すでに診察を始めていたカイルは、例によって能力を使い、体を打つことによって起こりうる内臓の損傷が無いことを確かめたうえで、ケガについてもその子の体を診終えたところである。
「うん、骨折もしていないし、擦 り傷だけだよ。エミリオが受け止めたんだね、その体・・・。」
「辛 うじてだが・・・とにかくよかった。」
「無事じゃあ済まないはずだよ。診せて。」
「少し腕を痛めただけだよ。私がリューイだったらよかったのに。」と、エミリオは苦笑した。
通行人たちは驚いて、
ベランダから身を乗り出して、
そのすぐあと、声を上げた母親らしき女性があわててベランダに出て来た。しかし一歩間に合わず、子供の体は
下にいる人々はみな一緒になって周囲を見回し、落下しようものなら何か受け止めることができるものはないかと、大あわてで探しだした。下手に体を張って助けようものなら、逆に命はない。
けたたましい悲鳴が響き渡った。
また反射的に見上げる人々。
子供が落ちてくる・・・!
「道を空けてください!」
そんな中、そう叫びながら駆け出した者がいた。さらには、あわや地面に叩きつけられるという直前に、その子の下に滑り込むようにして手を伸ばしたことで、その命を救ったのである。
抜群の瞬発力と度胸と正確さで、見事その子を受け止めた青年。彼が本来何者であるかなど人々は知らないが、彼は並々ならぬ
だがやはり、四階から落ちた子供の重量、その衝撃は大きく、青年は耐えきれずに、その子を抱きかかえたまま肩や腕を強打して転がった。
青年は激痛で起き上がることも、体を動かすことすらできなかったが、ひどく痛めた腕でもしっかりとその子を抱き締めている。
周りにいる人々がわっと駆け寄ってくる。彼のことを、たちまち集まってきた多くの者が知っていた。
どうにか痛みが引いてゆくと、青年は一人の男性に支えてもらいながら、徐々に体を起こした。
「こりゃたまげた、角の旅館でフィルート(この世界の木管楽器)を吹いてる綺麗な兄ちゃんだぞ。」と、その男性は言った。
「君、大丈夫かね。」
また別の紳士が、そう声をかけてきた。
青年は、自分のことよりも、抱いている子供の顔を心配そうにのぞき込む。二才になったか、ならないか・・・くらいのその男の子は、さすがに死ぬほど驚いたのだろう、気絶していた。頭も体も心も急成長して、できることがいっきに増えるお年頃だ。
「ええ、でも、この子が・・・。衝撃を和らげることはできましたが、体を打っています。すぐに医者に
「あんたも診てもらった方がいい。おい、医者だ!」
すぐに、ほかの人々も加わった。
「誰か医者を呼んできてくれ!」
すると、すぐに反応があった。だが、その声に応えて人々を掻き分けながら現れたのは、どう見てもまだ十代の少年。
「はーい、はいはい、医者です!どうしたの?」
はっきりそれだと名乗りながらやってきた黒髪の少年は、
「エミリオ!」
「やあ、カイル。よかった、君がいてくれたとは。」
そのあと、この青年エミリオには、
「おいカイル、何事だ。」
人々の間を謝りながら
「エミリオ、お前どうしたんだ。」
続いてリューイが。
「あっ、エミリオだ!」
「なんだ、どうした・・・あ、エミリオ。」と、レッド。
「ねえ、ちょっと皆、ミーアがいたわ!」
輪の外で落ち着かい様子でいたミーアを、今度はシャナイアが見つけて連れてきた。
「やだ、なに !? どうしたの、エミリオ!」
「この子がベランダから転落したんだ。カイル、この子は大丈夫かい。」
すでに診察を始めていたカイルは、例によって能力を使い、体を打つことによって起こりうる内臓の損傷が無いことを確かめたうえで、ケガについてもその子の体を診終えたところである。
「うん、骨折もしていないし、
「
「無事じゃあ済まないはずだよ。診せて。」
「少し腕を痛めただけだよ。私がリューイだったらよかったのに。」と、エミリオは苦笑した。
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