4. 王都へ・・・
文字数 2,023文字
「おや?新しい仲間には会えなかったのかい?」
するとカイルは首を振り、明るい声でこれに答えた。聞いて!と言わんばかりに。
「会えたんだけど、彼女いろいろ忙 しくて、すぐには一緒に行けないって言うから、先に最後の一人を探してからまた迎 えに行く約束をして、残してきたんだ。」
「じゃあ見つかったんだね、おめでとう・・・彼女?女性なのかい?」
「うん、メイリンっていうんだ。」
「エミリオ、そっちこそイヴはどうしたんだ。」
そのことを、誰よりも気にしていたレッドがきいた。仲間がそろえば最終的にまたヴェネッサに戻るのだとしても、そのうちにも何が起こるかしれないので、なるべく一緒にいた方がいいということのはずだった。
「ああ、彼女は、また神殿からちょっと出られなくなってしまってね。彼女とは、ジオンの町で再会の予定だ。」
「待ってくれ、まさか、イヴ一人でじゃないだろうな。」
「いや、まさか。テオ殿が、ガザンベルクの将軍が訪 ねてくる予定だとかで、その人と一緒に向かわせると言っていた。彼はテオ殿の旧友らしい。凄腕 の戦士だそうだよ。」
ガザンベルク・・・将軍。レッドは、胸中でつぶやいた。少年だった頃の残酷な思い出と共に、気高い気品の中にも野性的な顔と威厳を併 せ持つ、優しくてハンサムな男の姿がよみがえった。
だがレッドは、これに少し驚いたものの、一国に将軍(この世界では通常大将を指す)の地位につく者は、普通それぞれの軍(騎兵軍、弓兵軍、歩兵軍)に一人ずついる時代、特に強い確信を持つことはなかった。
レッドがそんな少年時代を思い出している一方では、ギルがエミリオの耳元でこんなことを囁 いていた。
「あとで興味深い話を教えてやるよ。」
「それは楽しみだな。でも、何についてだい。」
「とにかく、祝ってやりたくなるようなことだ。さすがのお前でも驚くぞ。」
そう言いながら、ギルは意味深な視線をリューイに向けた。
「ところでエミリオ、例のヤツ ―― 呪術 ―— は習得できたのか?」
エミリオはうなずいたが、どうも自信に欠ける顔をしている。
「形だけは・・・。だが、まだまだだ。知識だけで、実践を積んでいないからね。テオ殿には、今後も私たちには恐らくその手の困難が付き纏 うだろうから、戦法などはカイルをよく観察することで学ぶようにと言われた。これからは、カイルのすることが全て理解できるはずだからと・・・。」
仲間たちは、一様にゾッとして青ざめた。
「うう・・・やだなあ・・・縁起でもない。」
カイルはうんざりという顔をしている。
「それは・・・占いの結果の予言か、直感かどっちだろうな。」
ギルも滅入 りながらつぶやいた。
「それで、いつ出発するの?お風呂に入れて、ひと休みさせてくれたら、私は今日でも構わないわよ。」
シャナイアが言った。
「そうだな。確か、リューイの故郷に寄る予定だったはずだ。なら早い方がいいだろう。」
レッドが言った。
「そうか、そういう約束だったな。」と、ギルも思い出した。
「悪いな。」
リューイはキースの頭を撫 でながら肩をすくめる。
「いや、興味もあるんだ。気にするな。」と、ギル。
カイルは早くも地図を広げていた。
「あ、ねえ、わりと近くに王都があるよ。そっちに進路を取るなら、ここにも寄ってみようよ。午後から出るなら、数日でこの国に入ることもできそうだよ。あ、でもここへ行くには砂漠を抜けないとダメなんだ。この手前の町でしっかり準備を整えないと。思ったより時間かかるかなあ。」
嬉しそうにそう提案するカイルを横目に見ながら、ギルはこれに悪寒を覚えずにはいられなかった。
「なあカイル・・・なんて国だ?」
カイルは地図に指を置いて、その国名を読み上げる。
「えっと・・・ダルアバス、ダルアバス王国だって。」
「だろうな・・・やっぱり。」
「どうかしたかい?ギル。」
「え、いや、何でも・・・どうもしないさ。」
エミリオに様子のおかしさに気付かれて、ギルは気を取り直そうとしたが、ある男の顔が脳裏 にチラついて仕方がなかった。幼馴染 みであるので、その男のことはよく知っている。浅黒い肌の美青年で、だが冗談好きであり、女性を口説 くことにかけては大陸一に違いないと皮肉をこめて太鼓判を押してやれるほどの色男だ。
その男、ディオマルク・サーマン・ユリディス・ダルアバス 。彼は、青い装飾タイルが美しい華やかな王国、ダルアバスの王太子である。
「では案内しよう。旅館の主人に発 つことを伝えなければ。馬もそこに預 けている。」
「俺が馬を引くよ。エミリオはおとなしくしてな。」
リューイが言った。
ギルは眩暈 がする思いだった。内心、気が進まない。そのせいで、出した声もひどく重いため息混 じりなものになってしまった。
「それじゃあ、そこで休憩をとったら行こうか・・・ダルアバスへ。」
※ ディオマルク王子は 外伝『 運命のヘルクトロイ 』 ― 「 16. 揺らぎだした信念 」 で登場しています。
するとカイルは首を振り、明るい声でこれに答えた。聞いて!と言わんばかりに。
「会えたんだけど、彼女いろいろ
「じゃあ見つかったんだね、おめでとう・・・彼女?女性なのかい?」
「うん、メイリンっていうんだ。」
「エミリオ、そっちこそイヴはどうしたんだ。」
そのことを、誰よりも気にしていたレッドがきいた。仲間がそろえば最終的にまたヴェネッサに戻るのだとしても、そのうちにも何が起こるかしれないので、なるべく一緒にいた方がいいということのはずだった。
「ああ、彼女は、また神殿からちょっと出られなくなってしまってね。彼女とは、ジオンの町で再会の予定だ。」
「待ってくれ、まさか、イヴ一人でじゃないだろうな。」
「いや、まさか。テオ殿が、ガザンベルクの将軍が
ガザンベルク・・・将軍。レッドは、胸中でつぶやいた。少年だった頃の残酷な思い出と共に、気高い気品の中にも野性的な顔と威厳を
だがレッドは、これに少し驚いたものの、一国に将軍(この世界では通常大将を指す)の地位につく者は、普通それぞれの軍(騎兵軍、弓兵軍、歩兵軍)に一人ずついる時代、特に強い確信を持つことはなかった。
レッドがそんな少年時代を思い出している一方では、ギルがエミリオの耳元でこんなことを
「あとで興味深い話を教えてやるよ。」
「それは楽しみだな。でも、何についてだい。」
「とにかく、祝ってやりたくなるようなことだ。さすがのお前でも驚くぞ。」
そう言いながら、ギルは意味深な視線をリューイに向けた。
「ところでエミリオ、例のヤツ ―― 呪術 ―— は習得できたのか?」
エミリオはうなずいたが、どうも自信に欠ける顔をしている。
「形だけは・・・。だが、まだまだだ。知識だけで、実践を積んでいないからね。テオ殿には、今後も私たちには恐らくその手の困難が付き
仲間たちは、一様にゾッとして青ざめた。
「うう・・・やだなあ・・・縁起でもない。」
カイルはうんざりという顔をしている。
「それは・・・占いの結果の予言か、直感かどっちだろうな。」
ギルも
「それで、いつ出発するの?お風呂に入れて、ひと休みさせてくれたら、私は今日でも構わないわよ。」
シャナイアが言った。
「そうだな。確か、リューイの故郷に寄る予定だったはずだ。なら早い方がいいだろう。」
レッドが言った。
「そうか、そういう約束だったな。」と、ギルも思い出した。
「悪いな。」
リューイはキースの頭を
「いや、興味もあるんだ。気にするな。」と、ギル。
カイルは早くも地図を広げていた。
「あ、ねえ、わりと近くに王都があるよ。そっちに進路を取るなら、ここにも寄ってみようよ。午後から出るなら、数日でこの国に入ることもできそうだよ。あ、でもここへ行くには砂漠を抜けないとダメなんだ。この手前の町でしっかり準備を整えないと。思ったより時間かかるかなあ。」
嬉しそうにそう提案するカイルを横目に見ながら、ギルはこれに悪寒を覚えずにはいられなかった。
「なあカイル・・・なんて国だ?」
カイルは地図に指を置いて、その国名を読み上げる。
「えっと・・・ダルアバス、ダルアバス王国だって。」
「だろうな・・・やっぱり。」
「どうかしたかい?ギル。」
「え、いや、何でも・・・どうもしないさ。」
エミリオに様子のおかしさに気付かれて、ギルは気を取り直そうとしたが、ある男の顔が
その男、ディオマルク・サーマン・ユリディス・ダルアバス 。彼は、青い装飾タイルが美しい華やかな王国、ダルアバスの王太子である。
「では案内しよう。旅館の主人に
「俺が馬を引くよ。エミリオはおとなしくしてな。」
リューイが言った。
ギルは
「それじゃあ、そこで休憩をとったら行こうか・・・ダルアバスへ。」
※ ディオマルク王子は 外伝『 運命のヘルクトロイ 』 ― 「 16. 揺らぎだした信念 」 で登場しています。
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