22.  リューイという青年

文字数 1,654文字

 いよいよ深刻な顔をそろえ、さすがに誰もが弱り果てていた。

「リューイのヤツ、自分の力のほどまでも忘れちまったってわけか・・・。」
 ギルが参ったなという面持ちで、ため息混じりに言った。

「いっそ、とりあえず連れ戻してみる?一緒にまた旅をすれば、そのうち治るんじゃないかしら。もう野宿にもうんざり。川の水も冷たいし、お風呂に入りたいわ。」
「お前のそれは、なにげに連行ってことだろう。そんな可愛そうなことができるか。」

 シャナイアに向かって、言下にレッドは言葉を返した。

「可愛そうって、誰が?私たちといた方が記憶が戻りやすいって分かれば、リューイだって喜んで戻ってくれるかもしれないじゃない。彼女も、あての無いそんなリューイを不憫(ふびん)に思ってくれてるだけでしょう?」
「俺が迎えに行ったのに、初め追い返されたんだぞ。」
「あなただと、見かけからして信用ならないからよ。例え知り合いでも、むしろ渡したくなくなるわよ。私とギルで迎えに行けば、きっと納得してくれるわよ。」

 果たして問題はそれだけか・・・と予感が止まないレッドは、そんなシャナイアを見てこうきいた。

「なあ、シャナイア・・・お前はリューイに慣れすぎて、どうとも感じなくなってるかもしれないけどな、初めてあいつと会った日のことをよく思い出してみろ。お前があいつと同じ年頃の彼女の立場で、リューイみたいなヤツを拾って数日一緒に過ごしたら、たいていのヤツは普通どうなると思う。」

 そう言われて、シャナイアはイオの村での思い出をたどってみた。そこで出会ったリューイは、とても純粋な青い瞳が印象的な、貴族のような美青年だと思ったことを覚えている。それに少し共に過ごしただけで、その瞳と同じ無垢で綺麗な内面の魅力にもすぐに気付くことができた。

「あ・・・好きになっちゃうかもね・・・。」
「俺が女でもそうなるだろうよ。しかも今のあいつは、野蛮なところが抜け落ちた完璧な好青年になってるんだぜ。彼女があいつに()れてるのはまず間違いないだろうな。それに彼女・・・独り暮らしのようだった。だから、今、強引にあの二人を引き離したくはないんだ。」
「あの子の記憶が戻ったら、その子はまた独りぼっちになっちゃうわけね・・・。」

「リューイが帰ってきてくれればだが。」
 ギルが言った。

「どういうことなの。」
「リューイのヤツも・・・おかしいんだ・・・。」
 レッドが答えた。
「えーっ !? ってことは、あのリューイが、その人とちょっといい感じになっちゃってるわけ !?」と、カイル。
「お前のちょっといい感じって、どんなだよ。」と、レッド。

 しかし実際問題、ここでいつまでも悠長(ゆうちょう)に過ごしているわけにもいかない。そう、エミリオたちとの待ち合わせの期日までには、レザンにたどり着かないといけないのである。逆算して考えると、もう何日も余裕はなかった。

 そのためしばらく黙って考えていたギルは、やがてため息をついてカイルを見た。
「ところでカイル、石(精霊石)を持ってるヤツの方はどうなんだ。」
 カイルはゆるゆると首を振ってみせた。
「うーん・・・それが、やっぱり難しいんだよね。エミリオがいないと・・・。」
「そうか・・・。なんなら帰りの進路をこちらにとって、エミリオとまた来ればいい。最悪、神の一人や二人抜けたって何とかなるかもしれないが・・・」
「ならないと思うっ。」と、カイル。
「リューイの方は・・・仮にあいつをここに置き去りにしたとして、もし記憶が戻ったら、あいつ、うろたえるだろうしな。それに、キースも置いていくことになる。」

 思案しながらギルの言葉を聞いていたレッドは、思い立ったように両膝を押し上げた。
「置き去りの話は待ってくれ。俺、今からもう一度あいつの様子を見に行ってくるよ。あいつ、やっと真剣に記憶を取り戻したいって思い始めたようだからさ。今夜、二人の間に何かが起きるかもしれない。」

 そうして、窪んだ岩を椅子代わりにしていたレッドがそこから立ち上がると、ギルも続いて腰を上げた。

「俺も付き合おう。」




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