24.  人さらい

文字数 1,503文字

「メイリン!」
 リューイはあわてて駆け戻り、家の中へ飛び込んだ。
「メイ・・・!」
 そして愕然(がくぜん)(たたず)んだ。

 暗がりはさらに増して見えづらかったが、その中でもすぐに事態は把握(はあく)できた。いつの間にやら、家は五人のならず者によってすっかり占領されていたのである。その五人は夕食の残り物に手を付けながら、面白くもなさそうな不機嫌面(ふきげんづら)で、テーブルや椅子にどかっと腰を下ろしている。そしてテーブルの上には、ふてぶてしく腰かけている無精髭(ぶしょうひげ)大男(おおおとこ)。メイリンは、その巨漢に背後から毛むくじゃらの腕を回されて、身動きがとれずにいる。

 大男は、リューイを見てニヤリと口元をゆがめた。
「よお、悪いが恋人はもらってくぜ。」
 それから明かりを子分に点けさせたその男は、リューイの顔がはっきりと見て取れるようになると目を丸くして、思わず嘆息(たんそく)を漏らした。
「こいつ、綺麗な(つら)してやがるぜ。()しかったなあ、あいにく、男には興味ねえんだ。下手な真似すると容赦しねえからな。長生きしたけりゃ、しばらくそこでおとなしくしてな。」
「彼女をどうする気だ。」
「金目の物が何もねえだろうが、このしけた家にはよ。だから、ちょっと付き合ってもらうだけさ、金になるまでな。幸い、すぐに売れてくれそうな面だぜ。」

 大男は、メイリンの女らしい(あご)を荒っぽくつかんで、肩越しに振り向かせる。
 メイリンは、その下品で恐ろしい目から逃れたくて顔を(そむ)けようとしたがかなわず、嫌悪感に()えかねて固く目を閉じた。

 その一味が侵入してきた窓越しには、ちょうど今やってきたばかりのギルとレッドがいて、この事の成り行きを、ただ固唾(かたず)を呑んで密かに見守っている。

「何かが起きるってのは、見事に的中したなレッド。」
「起きたのは予想外のことだったけどな。けど、おい、どこまで待てばいいんだ、もう既にヤバそうじゃねえか。」
「大丈夫だ、奴らが彼女を傷つけないのは確かだから・・・もう少し。」
「とか言って、いきなり乱暴されたらどうすんだ!俺は、ああいう奴らが無性に業腹(ごうはら)ならねえんだよ!」
 ギルは室内に向け続けていた視線を戻して、いきり立つレッドの目をのぞき込んだ。
「過去に何かあったのか?」
「いいや別にっ!」

 そんなレッドの見ている先で、情けなくその場に立ち尽くしたままのリューイは、ただやっとのことで悪党に言い返しているのである。

「メイリンを放せっ。」
「兄ちゃん、無理すんな。俺らが怖いだろ?そう顔に書いてあるぜ。おとなしくしてりゃあ、痛い目見なくて済むからよ。」

 大男は相手にしていられないといった様子で、虚勢(きょせい)を張るリューイを軽くあしらう。そのあとリューイには、子分たちのひどく品の無い嘲笑(ちょうしょう)が浴びせかけられた。

 大男は、長居は無用とばかりに玄関へ向かって顎をしゃくった。
「おら、そろそろ引き上げるぞ。」

 そのあと大男は、メイリンを小脇(こわき)に抱えるつもりで腹部へと手を回したが、その時何かに反応して腕を引きつらせた。大男は馴染(なじ)みある感触に気づいてニヤリと笑みを浮かべると、今度はメイリンの肩をつかんで正面を向かせる。

 すると、帯留(おびど)めの宝石に気付いた大男の目が、強欲(ごうよく)()き出しにきらめいた。

「こいつあ驚いた。思いがけないお恵みにありつけたもんだぜ。」

 メイリンが親を(しの)んで大切にしているエメラルドグリーンの宝石に、(あか)と犯罪まみれの汚い手が伸びていく。

「それに触るなっ!」

 カッとなったリューイは、ついに動いて勢い任せに突進した。

 すると、どうだ。

 握り拳を後ろへ引いた時の効率的な構え、その身ごなしは戦いのプロと言えるほどさまになっていて素早い。

 そして破壊的な威力を持つ鉄拳が、相手の頬に遠慮なく叩き込まれた。




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