17.  変わった人・・・?

文字数 991文字

 昨日までは傷にしみるだろうからと、メイリンが体を()いてやっていたが、今夜リューイは風呂に入ることができた。それは離れにある簡素な浴室で、浴槽は立派に湯を沸かす設備の整ったものだったが、それはリューイ一人が入るのがやっとなほど小さかった。

 リューイは少しぬるめの湯船に()かりながら、一人いつまでも悩んでいた。昨日から記憶の断片が閃光(せんこう)のように不意によみがえることがあり、だが自分とのつながりは全く理解できずにいた。

 リューイは天窓から見える、灰色の夜空に浮かぶ影のような雲に自分の心の暗雲(あんうん)を重ね、重苦しいため息をつきながら、湯を両手ですくい上げて顔にかけた。

 やがて風呂から上がったリューイは、適当に体を()いたあと、そのままデッキを渡って部屋に戻った。

 ベッドに腰かけて彼のズボンの(やぶ)れ目を()(つくろ)ってやっていたメイリンは、彼がついたてを横切って入ってくると、ハッと驚き、その服であわてて顔を覆った。

 リューイが素っ裸のままで、髪を()()き平然と戻ってきたからだ。メイリンがきちんと用意していた着替えを小脇(こわき)にかかえて。

「なに?」
 リューイは仁王立ちで、あっけらかんとして言った。

「なにって、なんで!?
 これは質問ではなく非難(ひなん)上擦(うわず)る声でそう言ったメイリンは、真っ赤になった顔を隠したままだ。

「なにが?」
「どうして着替えを持ってるの?」
「置いてあったから。」

 どうして着替えて来ないの?と問えば少しは理解もできたかもしれなかったが、どうも冗談でないその返答には、メイリンは驚くを通り越して、しばらく声が出てこなかった。

「い、いいからじゃあ、これを着てみて。やっと全部直し終えたから。」
 そう言うと、メイリンは下を向きながら荒っぽく腕を突き出して、ズボンを手渡した。
「ああ、ありがとう。すごいな、穴が綺麗に無くなってる。」
「それより、ねえ、もういい?」
「なにが?」
「ズボン、ちゃんと履いた?」
「ああ・・・なんで?ああ、うん、大丈夫だ、ちゃんと直ってるよ。」

 メイリンはもう呆れ果てて、数秒、完全に固まってしまった。

「ねえ、あなた・・・ほんとに大丈夫?お医者様に()てもらう?」
「なんで?」
「だって何だか・・・変よ。」
「そうかな。何も思い出せない以外は、俺は別に悩んでなんてないけど。」

 メイリンはまじまじと彼を見つめる。そして首をかしげた。

「・・・もともとそうなのかしら・・・変わった人。」



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