15.    健忘症(記憶喪失)

文字数 1,218文字

 見つかったはいいが、どうしたものか・・・と、悩みながら重い足取りで戻ったレッドを、たちまち仲間たちは不安そうに取り巻いた。その誰もが、今日こそはリューイが見つかるはずだと期待していたので、レッドが一人でとぼとぼと帰ってきた様子のおかしさには、すぐに気付くことができたのである。

 それでレッドは、うかない顔でさっそく事情を話すことになった。そして・・・聞き終えた時には、一様に難しい顔をそろえて沈黙した。

健忘症(けんぼうしょう)だな。」
 たちどころに判断したギルが、やがてため息をついて言った。

「ほんとに本人?」
 カイルがきくと、レッドはすぐにこう答えた。
「ああ、間違いない。あの時その彼女、混乱して狂いかけてたリューイを抱いて、無理しないでって言ったんだ。言葉づかいもすっかりおとなしくなって(すき)だらけだったし、まるで別人のようだったがな。声は確かにリューイのものだったよ。」

 レッドはほかにひっかかることがあったが、とりあえず仲間には伏せておいた。最も気になるのは、彼女の最後の言葉だ。ごめんなさい・・・。単に、訪問を拒否したことに対する謝罪だけではないようにも聞こえた。リューイの記憶が戻ることを、どこか恐れているような・・・あの様子。

 そして、レッドからその話を聞いただけで、ギルも同様、そのことに何となく(かん)づいていた。なぜなら、レッドの話には続きがなかった。本来なら、リューイの知り合いである者が現れれば、彼女はその者、つまりレッドを家に入れ、リューイの記憶が戻るよう、そこでいろいろと話をしているはずだからだ。そのあるべき部分を、レッドは少しも語らずに終えていた。

 そして、カイルもまた医学にもとづきいろいろと黙考していた。
 レッドの報告から分かることといえば、外傷性脳損傷による逆向性健忘。過去の出来事を思い出せない記憶喪失。それも、自分の名前も分からないとなると、恐らく全般性健忘。後遺症として残ってしまう恐れもある。が、何か回復するきっかけはないか・・・と考えてみると、一つ思いついた。リューイは武闘家。達人と言えるまでに鍛錬(たんれん)を積んだ体が覚えているはずの記憶は、無意識にも何かの拍子に現れるかもしれない。体が思い出してくれたら、その刺激で治るのではないかと。

 するとシャナイアが、「リューイ・・・その子のこと、困らせたりなんてしてないかしら。あの子ったら、私の前でも平気で素っ裸になっちゃうくらいだから心配だわ。」と母親のような口調でつぶやいた。
 
「・・・もう手遅れかもな。けど、頭打ったせいだと思うだろ。」と思わず想像してから、レッドも真面目(まじめ)に答えた。

「とにかく軽度であることを願って、ひとまず様子を見守るほかないだろう。」
 それ――リューイが無邪気に露出狂を発症する恐れ――とは別に気になることもあるものの、そう言ってギルが話の整理をつけた。それに、そんなことをリューイがしでかしてくれたら、彼女の気持ちも一瞬で変わるかもしれない。





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