19.  リューイとメイリン

文字数 903文字

 今日もまたリューイの様子を見守るため、ゆるやかな清流のほとりへとやってきたレッドは、それを見た時、ハッと息を呑みこんだ。

「おい・・・おいっ、おいおいおいっ!」

 あわてて(きびす)を返したレッドは、あとから悠長(ゆうちょう)に付いて来ていたギルの腕を引っつかむなり、乱暴に引っ張りまくる。

「いてて、何をそんなに(あせ)ってるんだ。」
「焦りもするぜっ、見てみろ。」

 言われるままにギルが(しげ)みからそっとのぞいてみれば、目に飛び込んできたのは、リューイと、そしてリューイを助けた少女が抱き合って、一緒に寝ころんでいるほほ笑ましい姿。植物の(つる)螺旋(らせん)状にからまる木の下にいる。そこで彼女はリューイの胸に(ほお)をぴったりと付けて目を閉じ、リューイも彼女の背中を抱きしめて、涼しい風が吹き過ぎていく中、二人は幸せそうにまどろんでいるのである。

「へえ・・・驚いたな。」
「なにを感心したような声出してんだ。ますます連れ戻しにくくなったじゃねえか。すっかり仲良しを通り越して、もうまるで恋人同士だ。」
「これはこれで祝ってやりたいくらいだがな、俺としては。」
「いつまでも気楽なこと言ってんじゃねえぞ。」

 二人が(やぶ)に隠れてただ見守っていると、低く垂れこめた空から雨粒がぱらぱらと落ちてきた。

 ギルは反射的に空を見上げた。すると急に雨脚が強くなってきたので、今日のところはすぐに戻ることに。

 一方、リューイとメイリンがいる場所は、大木の枝葉(えだは)がしっかりと傘になってくれているが、雨音で不意に気付いた二人もあわてたように起き上がっていた。そして、リューイが素早くシャツを脱いで、彼女の頭にサッとかぶせてやるのが見えた。彼女を思う気持ちが、自然とそうさせたのだろう。二人はそのまま慣れたふうに寄り添いながら帰って行く。

 その場を離れる前に、ギルはもう一度振り返った。去っていくリューイの後ろ姿は、まさに恋人が濡れないように気遣う大人の紳士のようだ。自分の知らない誰かのよう・・・すると突然、子供と変わらない振る舞いばかりするリューイが目に浮かんだ。妙な喪失感が、正直、少し胸にこたえた。

 ギルは、先に立って歩きだしたレッドの後ろで、知らずと寂しそうな笑みを浮かべていた。


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