カズキ

文字数 1,016文字

「俺さー、腰抜かしたやつ生まれて初めてみたわ」
 昨夜の肝試しの様子を聞いて真は大笑いしている。
 肝試しから明けて翌日、俺とウメは朝食を頂いてから雄太の家をでて、ウメと別れて家に帰ると昨夜の睡眠不足を補うためにもう一度布団に入り、目を覚ますと午後一時を過ぎていた。社までぶらぶらやってくると真がいたので昨夜の肝試しの一部始終を聞かせていたのだ。
「さすがに漏らしはしなかったのか?」
「いやあ、ちょっと出てたと思うぞ」
 真はまたげらげら笑って、目に涙まで浮かべている。
「あははは、俺もいっとけばよかった。朝から講習なんてなきゃいいのに」
「毎日あんの? 学校の講習」
「うん。最悪だろ? しかも夏休み明けには講習でやった範囲でテストがあるからサボれないんだよ」
「偏差値高い高校は大変だな」
「でもな、そうやって頭脳が研ぎ澄まされていくわけよ。殺人事件が起きたら俺が解決してやろう」
 真と喋っているうちに一時間ほど経ち、腕時計を見ると三時十分だった。
「しかし誰もこねえな」
 雄太はまだ寝てるのだろうが、ウメは家に帰って二度寝したとしても起きてていい時間だ。
「ウメのやつ、起きてるならきても良さそうだけど。他に行くとこもないだろうし」
「家で宿題でもやってんじゃないの?」
「あー、かもな」まだ目の奥に睡眠不足のかすかな痛みが残っていて、俺は両手を上にあげて伸びをしながらあくびをした。「どうせ暇だし、学校の方でも行ってみるか」
 寝ている間に雨が降ったようで畦道に水溜りができている。そのおかげか日盛りの時間帯にしては涼しかった。水溜りが晴れた空を反射して、蝉と蛙が競うように鳴いている。道端に生えた低木の枝に蜘蛛の巣が張っていて、糸にのった無数の雨粒がきらきらしていた。
 校門から校舎の方を見ると石段に腰を下ろしている二つの人影が見えた。一人はウメだ。手を上げて名前を叫ぼうとしたが、ウメの隣にいる人影を見て息を止めた。夏の暑さが一気に冷めていった。俺はあわてて校門の陰に隠れ、そっと顔を出して石段の様子を伺った。
「なにしてんの?」真が不思議そうに、俺の後ろから石段の方を覗き込む。
「お、ウメじゃん。何やってんだあいつ、かかしなんか横に置いて」
 ウメの隣の石段に、一体のかかしが立てかけてあるのだ。声は聞こえないが、ウメはかかしに向かって話しかけたり楽しそうな笑顔を向けたりしている。俺は真を引っ張って校門を離れながら言った。
「あのかかし、カズキだ」
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