マコト
文字数 464文字
蝉の声が耳に戻ってきて俺ははっと我に返った。目の前に浮かんでいた幻のような映像が薄れて、社の景色がかすかに揺れた。立ち上がると足元が少しふらついた。
「和希も昨日から帰ってないらしい。夜にあいつの母ちゃんから電話があった」
雄太の不安そうな声が背中でして俺は振り返る。雄太は拝殿の階段に腰を下ろしたまま
「かかしの名前だろ、カズキは」
雄太は少し顔をあげて、睨むような上目遣いで俺を見た。
「おまえまだそんなこと言ってんのかよ。いい加減にしろって、いつまでもガキじゃねえんだから」
いくつもの記憶が溶け合って形をなさない色彩になる。兄貴が優しく笑いかけながら俺に力一杯ボールを投げつける。亮平と正樹がバカみたいな笑い声をあげているのに、顔には表情がなく冷たい目で俺を見ている。ドラゴンボールのカードダスを笑いながら差し出す俺に、ウメが唇を震わせながら怯えた目を向ける。道に立っていたかかしが俺に微笑みかける。
「あのかかしは、記憶の実験に真が持ってきて——」
雄太の顔が怪訝そうに曇る。
「マコト?」 〈了〉
「和希も昨日から帰ってないらしい。夜にあいつの母ちゃんから電話があった」
雄太の不安そうな声が背中でして俺は振り返る。雄太は拝殿の階段に腰を下ろしたまま
「かかしの名前だろ、カズキは」
雄太は少し顔をあげて、睨むような上目遣いで俺を見た。
「おまえまだそんなこと言ってんのかよ。いい加減にしろって、いつまでもガキじゃねえんだから」
いくつもの記憶が溶け合って形をなさない色彩になる。兄貴が優しく笑いかけながら俺に力一杯ボールを投げつける。亮平と正樹がバカみたいな笑い声をあげているのに、顔には表情がなく冷たい目で俺を見ている。ドラゴンボールのカードダスを笑いながら差し出す俺に、ウメが唇を震わせながら怯えた目を向ける。道に立っていたかかしが俺に微笑みかける。
「あのかかしは、記憶の実験に真が持ってきて——」
雄太の顔が怪訝そうに曇る。
「マコト?」 〈了〉