【読書日記】小野不由美 残穢

文字数 715文字

本当に怖い怪談とは、怪談の内容が怖いのではなく、怪談を語る、あるいは聞くことを通して、自分が否応なく怪談の登場人物になってしまうことが怖いのだ。

貞子がテレビから出てくると、なぜ人は怖いのか、それは怪談の観測者がいる世界へ、怪談の登場人物が能動的に接触をはかり、観測者を怪談の世界に強制的に引き摺り込むからである。

実態のない怖い話が、その象徴的なタイトルと、実態はないのだけれど怖いらしいという漠然とした情報が強調され、流布してくというモチーフは珍しいものではない。牛の首、鮫島事件等がそれだ。

しかし、文庫本にして350頁。一冊の本にそれをまとめあげたのは見事であり、よく出来ているとしか言いようがない。

前半部分のくどすぎる時代背景説明や、反復感のある時代考証のシーンは、一見すると冗長に思えるが、それこそが、平山夢明登場後のある仮説、「怪談は内容が怖いわけではなく、怪談の当事者に自分がいつの間にかなっていることが怖い」に繋がる。

つまり、前半部分の謎解きに偽装された時代考証と聞き取り調査は、謎解きにおける伏線を張っているのではない。小野不由美自身がこの残穢の物語に飲み込まれていることのメタ的な伏線を張っているのだ。

途中までは、何か隠された悪意、怨念の正体が詳らかになることを期待させる展開がされるのだが、それこそが偽装。最後まで読んでも何も解明されない。そして、何も解明されないから怖いのではない。解明されない謎に、客観的に見て入れ込みすぎたようにしか思えない小野不由美が残穢の主人公になっていく過程が怖いのだ。

そして、本作品は後に映画化された。主演は竹内結子だった。この作品のテーマを語るうえでそれは絶対に忘れてはいけない。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み