【読書日記】ポール・ギャリコ/矢川澄子訳 スノーグース

文字数 616文字

ポール・ギャリコの矢川澄子訳の作品はいくつか読んでいる。共通してじんわりとした人肌の暖かさを感じる切ない作品が多い。

雪のひとひらでは矢川澄子の後書きにもある通り、ごくごく平凡な女性の一生を描いている。夫に先立たれ、子供は自立して、孤独な老後を送る。しかし、この作品はその全てを肯定する。この一生に後悔なんてあるはずがない。老いて消えていく雪のひとひらを世界が包み込んでいくのだ。

スノーグースでは鳥と生きる孤独な絵描きと少女との白雁を通じた交流を描く。白雁がやってくる季節でないと少女は来ない。少女を待つ絵描きの姿がひどく切ない。

物語の中盤から二人は第二次世界大戦に巻き込まれる。ここで描かれるのは絵描きの誇り高く気高い精神だ。彼は戦争で傷ついた兵士たちを鳥たちと同じように救おうとするのだ。彼が人間嫌いの変わり者ではなく、真に人間を愛していた人物であると分かるシーンだ。

少女が彼の人間愛、気高き精神に気づいたときには時すでに遅い。幼い自分を描いた絵と白雁だけが、彼が生きた証として残った。

本作を恋愛小説として読むこともできるだろう。大事なことはそう読んでも、読まなくても、作品の価値が全く変わらないことだ。

世界から向けられる深い愛情と二人を見守る暖かな眼差しが注がれる。

矢川澄子がそれを「父から娘へと向けられる愛」と表現していることは誠に興味深く、彼女がポール・ギャリコの多くの作品を訳したことにも頷ける。

彼の作品はとにかく暖かい。
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