vermillion pt.1

文字数 751文字

slipknotのvermillion pt.1(アコースティックじゃないやつ)のPVが昔から好き。

PVの主人公である女性は、自分以外の時間のスピードが早送りになっている世界で生きている。朝、目が覚めてあくびをするだけで時計の長針が4回転し、瓶のなかの蝶のさなぎをぼーっと眺めているだけで、立派な成虫となって飛び立ってしまう。彼女は外の世界で自分と同じ時間の感覚を待つ他者を探して、あちこちをまわるが、見つかる気配はない。朝と夜を繰り返し、世界に置いていかれる絶望に打ちひしがれる。そのとき、自分が瓶のなかで育てていた蝶の成虫がゆっくりと彼女の前に舞い降りる。初めて現れた自分と時間の感覚を共有するもの。しかし、地に落ちた蝶は寿命で死んで動かなくなっていた。蝶の亡骸を両手で掬い取り、彼女は静かに微笑んだ。

蝶のメタファーが何かは人それぞれだけれど、世界のスピードについていけなくなる感覚は映像としてよく表現されている。空港で椅子に座る人に話しかけようとして手を伸ばしても、肩に手が届く頃にはもう誰もいないという場面はひどく切ない。唯一、世界とのスピード感覚が同じだと思っていた蝶も、捕まえる頃には死骸になっていた。

世界にただ置いていかれる。世界という不変の他者を前に佇むしかない。人は他者と何かを乗り越えようとするとき、もしくは、他者と同じ時代を生きているとき、同じタイミングで、一緒に乗り越えたいし、苦痛を共有したいと欲望する。

しかし、世界や他者が乗り越えたことを、自分は乗り越えられないという事態が発生する。それは、乗り越えられなかったものをひどく孤独にさせる。

孤独とは、他者や世界との時間の感覚の差異によって生まれるものなんだと思う。そして、時間とは一度置いていかれたら二度と元に戻らないものだ。
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