イヂチアキコと少女

文字数 605文字

 イヂチアキコという画家が学生の頃から好きだ。彼女は所謂美人画と呼ばれるジャンルの人として知られているが、イヂチの描く少女はそのどれと比べても異質だ。

 イヂチの描く少女は支配も所有もされない。少女の目はじっとこちらを見つめる。それは少女を支配し所有し性的に消費しようとするものたちに向けられた侮蔑の目だ。画集を買う、画像を保存する、展覧会で絵を買う、物理的に少女を所有できたとしても彼女たちは絶対に僕たちには従わない。

 話は変わるが僕は2010年代のアニメに出てくる少女をあまり好きになれない。というより僕の考えでは彼女らは少女ではない。自由があまりにもないからだ。なにがしの部活に打ち込む、バンドを組む、スポーツをする、少女たちの細部をいくらアニメーションとして精巧に描いても、彼女たちには恋愛をする自由がないし、部活は辞めれない、最初にできた友達とも疎遠になれない……etc。作家によって与えられた役割から抜け出すことを許されない人形でしかない。

 少女とはひたすらに自由な、あるいは自由を求める女性のことだと思う。僕たちの視線を少女たちは拒絶する、だからこそ少女たちは美しい。本当に美しいものは怖い。醜い僕たちを絶対に受け入れてくれない剃刀の束だ。だからこそ僕たちは少女に敬意を払い、畏怖を覚えなければならない。美しいものを恐れこうべを垂れる姿が生き物として実に自然なことのように思えるのは僕だけだろうか。
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