元に戻るもの

文字数 580文字

朝、鏡に写るほっぺたに見慣れないできものを見つけると、このできものはもう一生このままほっぺたに居座り続けるのではないかと不安になる。

おそらく、一週間もしたら跡形もなく消え去っていると思うのだけれど、最近、このような身体の不可逆性に対する不安が頻繁に現れる。「元に戻らなかったらどうしよう」と。

そもそも、元に戻るとは何なのか。

つまり、僕はできものがほっぺたにある自分を自分だと認識できなかったと云うことだ。ほっぺたにできものがない自分こそ本当の自分なのだと。だから、元に戻るかどうか気になる。

これは歳を重ねると云うことと関わっていると思う。歳を重ねていけば身体的変化が起こるのは当然のことで、それがありのままの自分な訳だが、やっぱり納得がいかない。本当の自分が一瞬で過ぎ去ることもあれば、一生見つからない場合もある。

女性であれば子を生む自分と子を生まない自分を対照させ、どちらが本当の自分なのか考える時間があるのだろう。そして、本当の自分が見つかったとしても、身体がそれについていかない場合もあるのだ。誠理不尽だ。

そして、性同一性障害の問題もここに収斂していく。鏡に写る自分が本当の自分ではないと彼ら、もしくは彼女らは思う。だから、自分の身体をホルモン治療や外科手術で本当の自分に最適化していく。

……なんだか気分が落ち込む。この話をしていると。だから、止めます。
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