21. 術使いの日誌
文字数 1,725文字
そうして軽い朝食を終えると、カイルはいつものようにエミリオとギル、そしてレッドとリューイと共に、意気込んで集会所へ向かった。早く解決策、さらには前代未聞の浄化方法を知りたくて、待ちきれない様子。どうか残されていますように・・・と一心に祈りながら足を進めた。
明け方から薄暗かったこの日は、やはり、曇りどころか今にもひと雨降り出しそうな空模様 である。
やがて到着した集会所はさらに暗く、天井から吊られているランプを二つとも点けた。すると、胸の高さほどの本棚が、左手の隅 から隅まで隙間 なく占めているのがよく分かるようになる。いつもは、玄関をくぐれば真っ先に目に映るものだ。ガランとしているその広い室内には、ほかにめぼしいものがないからである。その本棚を含めて清掃や整理整頓が行き届いているので、今ここにいる村人たちも利用しているのだろう。書物に気になる埃 もついていない。
その中から、特に古びた小冊子を手に取ってみた。いつ書かれたものかなど見当もつかないが、幸い、まだじゅうぶんに読むことができる。
そのあと左右、真ん中から手分けして同時に調べていくことに。確認し終えたものは、取り出した場所の棚の上に、分かるように積み上げた。あとで直した時に、多少位置が変わっているのは大目にみてくれるだろうと勝手に決めつけて、レッドやリューイは豪快にどんどん取り出している。しかもリューイは、文章を理解できる能力が八歳ほどの子供並みだからほとんど感覚だ。精霊文字がどういうものであるか、これまでの経験から形は見たことがあって何となく分かるという、その感覚に頼っているだけである。
すると、そんな雑に見えるやり方でも功 を奏 してか、なんとレッドは、短時間でそれらしい一冊を探 り当てた。
これは・・・と、書かれている文章に黙って視線を走らせる。精霊やら呪文やらの言葉がある。そして出て来た意味不明の文字・・・精霊文字だ。
さらにページを進めていくと・・・予感的中!
「なあ・・・これじゃないか。」
「うそ、あった⁉」
カイルは勢いよくレッドに飛びついた。
「おお、奇跡。」
ギルは思わず拍手。
カイルがよくよく確認すると、それは精霊術の教科書にもなれる術使いの活動日誌といえるもの。レッドが開いたページには、確かに経緯 を端的 にまとめた書き出しになっている。日誌を兼ねているから続く文章は当日の流れで、中核はもちろん、独自に編み出した浄化方法について。その詳細が丁寧に説明されている。非常にありがたい貴重な一冊だ。思わず魔が差して、こっそりくすねそうになる。いやいや、ダメダメ・・・と理性を引き戻し、この村に滞在している間だけと己に言い聞かせて、カイルはほかの件についてもちょっと拝読 。
すると、占いを生業 とする中で、呪詛 が行われた事件にも関わっていたことが分かる。それについての件数は、書かれているものを見る限りでは多くない。そもそも、犯罪行為であるそれが起こること自体が間違っているので当然といえば当然だが、中には精霊同士の戦いの記述まであった。自身の体験を具体例として解説してあるので分かりやすく、非常に興味深い。
そしてこれらの件と、やしろの首輪の件との間に、見開き一ページ分の白紙を挟んであるので、それはやはり類を見ない特別な体験だったのだろう。ちなみに、これ以前のものから日付も何年も飛んでいる。歳を取って、基本的にはすでに引退していたことが窺 われた。
ところでこの機会に、カイルにはもう一つはっきりさせたいことがある。レネの話にもあったように、首輪から感じられるものには、カイル自身ひっかかることがまだあった。そこで、やしろに埋めたことについても探してみた・・・が、それについては、何も記されてはいないようだった。わざわざ隠したのだから、後世に残すものに書いておくわけがないか・・・と、カイルは落胆 のため息をついた。
その晩カイルは、必要事項だけでなく、一冊丸ごと目を通す勢いで、『術使いの日誌』なるものを夢中になって読み耽 ったのだった。
明け方から薄暗かったこの日は、やはり、曇りどころか今にもひと雨降り出しそうな
やがて到着した集会所はさらに暗く、天井から吊られているランプを二つとも点けた。すると、胸の高さほどの本棚が、左手の
その中から、特に古びた小冊子を手に取ってみた。いつ書かれたものかなど見当もつかないが、幸い、まだじゅうぶんに読むことができる。
そのあと左右、真ん中から手分けして同時に調べていくことに。確認し終えたものは、取り出した場所の棚の上に、分かるように積み上げた。あとで直した時に、多少位置が変わっているのは大目にみてくれるだろうと勝手に決めつけて、レッドやリューイは豪快にどんどん取り出している。しかもリューイは、文章を理解できる能力が八歳ほどの子供並みだからほとんど感覚だ。精霊文字がどういうものであるか、これまでの経験から形は見たことがあって何となく分かるという、その感覚に頼っているだけである。
すると、そんな雑に見えるやり方でも
これは・・・と、書かれている文章に黙って視線を走らせる。精霊やら呪文やらの言葉がある。そして出て来た意味不明の文字・・・精霊文字だ。
さらにページを進めていくと・・・予感的中!
「なあ・・・これじゃないか。」
「うそ、あった⁉」
カイルは勢いよくレッドに飛びついた。
「おお、奇跡。」
ギルは思わず拍手。
カイルがよくよく確認すると、それは精霊術の教科書にもなれる術使いの活動日誌といえるもの。レッドが開いたページには、確かに
首輪
ややしろ
の言葉を含む文章がある。少し戻して見直してみれば、日付やその日の天候を記したあとに、儀式を行うに至った理由など、すると、占いを
そしてこれらの件と、やしろの首輪の件との間に、見開き一ページ分の白紙を挟んであるので、それはやはり類を見ない特別な体験だったのだろう。ちなみに、これ以前のものから日付も何年も飛んでいる。歳を取って、基本的にはすでに引退していたことが
ところでこの機会に、カイルにはもう一つはっきりさせたいことがある。レネの話にもあったように、首輪から感じられるものには、カイル自身ひっかかることがまだあった。そこで、やしろに埋めたことについても探してみた・・・が、それについては、何も記されてはいないようだった。わざわざ隠したのだから、後世に残すものに書いておくわけがないか・・・と、カイルは
その晩カイルは、必要事項だけでなく、一冊丸ごと目を通す勢いで、『術使いの日誌』なるものを夢中になって読み
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
(ログインが必要です)