13. 衝撃の朝

文字数 1,238文字

 早朝まで続いた話し合いのあと、密かに煉瓦(れんが)小屋へと戻っていたリアンは、小屋の壁にもたれて、明るくなるのを待ちながら、わずかな睡眠をとった。

 朝日は向かいの山の尾根から徐々に射してきて、村に届くようになる。陽光がリアンのいる場所を照らし、そして、まだ眠たそうにしている頭に飛びこんできた物音が、リアンをはっきりと目覚めさせた。

 小屋の鉄扉がガタガタと揺れる音。
 気が付いたレネが、外へ出ようとしている。
 その扉はカンヌキ式で、外からしか開けることができないのだ。

「レネッ!」
 リアンは(あわ)てて声をかけた。
「リアン!」
「レネ、大丈夫かい。」
「ねえ、何が起こっているの?ここは煉瓦小屋の中ね。どうして私はここにいるの?」

 やはり、レネにはその時の記憶がない・・・とリアンは確信して、いくらか躊躇(ちゅうちょ)したが、(あやま)るためには真実を伝えなければならない。この状況にレネも納得(なっとく)がいかないはずであるし、遅かれ早かれ知ることになるだろう。

「レネ・・・落ち着いて聞いて。実は僕が贈ったその首輪には・・・呪いがかけられているみたいなんだ。そのせいで、君は夜中に外へ出て無意識に暴れだした。ごめん・・・僕のせいだ。」

 衝撃のあまり声が出ないレネに、リアンは急いで言葉を続ける。
「でも大丈夫、サムジおじいさんがすぐに対処してくれたから。」

 そう言いながら、リアンは自分の右腕を見下ろした。しっかりと巻いている包帯のその下には、彼女に()みつかれた深い傷がある。

「リアン・・・首輪がまだ取れないわ。扉を開けてくれないのは、だからなのね。今のうちに外してもらえるように、おじいさんに伝えて。」
「それが・・・できないんだ。まだ・・・。」
「どうして?」
「それをすれば、首輪から炎が燃え上がる。君が焼け死ぬことになるって・・・。だから、君はまだこんな所に・・・。」

 それに対するレネの反応はなかった。

 小屋の高い位置に格子(こうし)窓があるが、それは彼女の身長よりも上にあるので、リアンと話すためめい一杯その壁際(かべぎわ)に寄っている彼女の姿は、中が薄暗いせいもあって見ることができない。

 無性に不安になり、リアンは息を殺して耳をすます。

 たちまち胸を締め付けられたリアンの顔が、痛ましいほどに(ゆが)んだ。その沈黙の中から聞き取れたのは、そっとすすり泣いている(かす)かな嗚咽(おえつ)だった。

「レネ・・・ごめん。助けるから・・・今、皆がそのために相談している。おじいさんも懸命に方法を探してくれてる。だから・・・泣かないで。」

 リアンはわざと、包帯をしていない方の腕を窓の中へと伸ばしていく。
 しばらくすると、それに応えた繊細(せんさい)で柔らかい指先に触れることができた。
 小さな格子(こうし)窓から指を(から)め合う二人。

 挙式当日を迎えるまでの毎日、心躍(こころおど)る幸せな日々を送れるはずだった・・・それが一転。

 だがここで、一緒に(なげ)いても仕方がない。ましてや自分で()いた種だ。自分には責任も、彼女を助ける義務もある。悲嘆(ひたん)に暮れそうになるのを精一杯 (こら)えて、リアンは彼女の手を強く(にぎ)り直した。



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