6. 今夜、何かが起こる

文字数 2,074文字


 そのあと急いで戻ったリューイは、まずカイルとレッド、そして、別の家にいたエミリオとギルにも知らせて連れてきた。

 リューイから老人の話を聞いたカイルは、考えられるそれなりの準備をして来ていた。

 そして、交代で一晩中リンを見張ることになった彼ら。

 自分の部屋に五人の男性が集まったこのおかしな状況にも、リンは何一つ質問することはなかった。

「このまま寝ちゃっていいの?」
 ベッドの上に座り込んだまま、おずおずと人の反応を(うかが)うリン。

 カイルは胸が詰まって、最初言葉が出てこなかった。
「うん、いいよ。きっと大丈夫だから。」

 カイルがそう微笑(ほほえ)みかけると、リンは嬉しそうにのびのびと横になった。

 それから少しして、リューイはふと気づいた。ぽかんと口を開けて(ゆる)みきったリンの(ほお)を、人差し指でつんつんと突いてみる。
「なあ・・・ほら。」

 こらこら・・・と、レッドが近づいてリューイの手をどけると、リンがごろんと大きな寝返りをうった。

 レッドはふっと笑い声を漏らし、「もう寝てる。」

 寝そべってから一分と経っていない。

 こうして気持ちよく眠れるのは、いったい何日ぶりのことなのだろう・・・そう思うと、だんだん(あわ)れで仕方がなくなり、彼らは言葉もなく目を見合った。

 エミリオがリンの体をすくい上げて、ベッドの真ん中へそっと戻した。そして、ギルが上掛け布団をかけ直してやった。

 そこで、示し合わせたように顔を見合う。
 今夜、これから何が起こるのか・・・そんな思いで。

「じゃあ、俺も。」
 そう言って大あくびをしたリューイは、部屋の(すみ)に寄せた二人掛けのソファーの肘掛けから、両足を投げ出して横になった。

「お先に。」と続いて、ギルも持ち込んだマットに寝転がった。

 そして、リンの枕元(まくらもと)にある丸椅子(まるいす)にはエミリオが、足元の寝台の(はし)にはレッドが、カイルは、ギルが寝ているマットの空いている場所に腰を下ろして、その時をじっと待った。

 午後の十一時を過ぎ、日付が変わり、夜中の一時になって、エミリオ、レッド、カイルが、先に仮眠をとった二人と交代する。

 長身のエミリオは、ギルが寝ていたマットに横になった。リンの足元にいるレッドは、そのままベッドの空いているスペースに背中を倒し、この中では最も背が低いカイルは、リューイが使っていたソファーに丸くなって収まった。

 二時が過ぎ、三時が過ぎ・・・そして交代の時間。

 ギルと場所を代わったエミリオがまた丸椅子に腰かけたので、カイルもまた自動的にマットの端に座っていた。

 こうしている間、キャンドルグラスの(かす)かな灯りの中で、張りつめる緊張感に特に会話もなく、たまに視線を交わすだけだった彼ら。

 だが、午前五時を回った頃、カイルが不意に腰を上げてエミリオの横に立った。 

「この首飾り、何か普通じゃない。」
「・・・呪われてるからな。」

 おいおい大丈夫か?という間をおいて、レッドが言った。だいたい、普通じゃないって言いたげなことを、さっきずっと(しゃべ)っていたじゃないかと。

「そうじゃなくて、感じるものが・・・一つじゃないような感覚・・・何だろこれ。」
 カイルはエミリオに視線を向ける。

 エミリオは、少し首を(かし)げてみせた。
「私も感じているものはあるが・・・普通がどうなのか分からないから・・・どう説明すればいいのか・・・。」
「そっか、そうだよね・・・。」
「ただ・・・その首輪は、まるで生きているかのように感じる。」

 カイルは、あっと意表をつかれながらも、なるほどというような表情をした。
「そうだ、僕が感じてる違和感もそれだ。そもそも、呪いがかけられているものって、誰かの(うら)みを映してるからそういうものなんだけど、これは特にそうだ。」

 その会話に入っていけないレッドは、部屋全体がうっすらと見えるようになり、夜が明け()めたことに気付いて、窓の外に目を向けた。

「ところで、日付はとっくに変わっているが・・・何か起こるのは、昨日の時点での今夜じゃなかったか。」
「今の時間も入るよ。夜を途中で分けちゃうと混乱するでしょ。」
「それももうすぐ明けそうだが・・・このまま済むか?」
「そう願いたいところだけど、実際に体験するのが、一番何かと手っ取り早――。」

「カイル・・・⁉」

 急に話を(さえぎ)ったエミリオの(するど)(ささや)きが、会話が生まれたことで(ゆる)んだ空気をいっきに引き締める。

 反射的に、エミリオの顔に視線を飛ばした二人。
 いつになく険しい表情でリンを凝視(ぎょうし)するエミリオ。
 ハッとして、すぐに二人も目を向け直すと・・・⁉

 なんと、リンの顔色が、どす黒い紫色にみるみる変色していく・・・!

「起きろ、リューイ!」

 レッドの怒鳴(どな)り声のパンチを食らって、リューイはソファーから転がり落ちた。
 一方、マットで眠っていたギルは、とたんに跳ね起きている。

「起きた!」と、リューイは打った頭に手をやって返事をした。

 サッと動いて、リンの枕元に集まった全員が恐る恐る注目していると、ひどく顔色の悪いリンがパッと目覚めた。

 思わず、一斉(いっせい)に後ずさった男たち。

 いきなり見開かれたその双眸(そうぼう)は、真っ赤な血の色一色だ。

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