13. 解決策を求めて

文字数 2,377文字

 首輪の謎を追ってトラウの村を出発したエミリオとギルは、その三日後にリディバの町に到着した。

 リディバは、丘の上から見渡せば、連なる赤や茶色の屋根が、緑の田園風景から(あざ)やかに浮かび上がっている大きな町だった。

 まずは、村から借りた馬を預けられる宿を探す二人。様々な人が好きに行き交う歩行者専用の通りには、旅館だけでなく土産(みやげ)物屋もズラリと並ぶ。そこを、管理がしっかりしていそうな宿泊所を求めて、手綱(たづな)を引きながら歩いた。馬の盗難も珍しくはない。借りている馬なので、少々料金が高くても出し惜しみはできない。そのため、常に守衛がいて、夜警も万全の宿を慎重に選んでいるのである。

 ところで、二人が乗ってきたこの二頭、若くて(たくま)しい駿馬(しゅんめ)ではなかった。持って行かれてもいいんじゃないかと思・・・そうギルもつい胸中で漏らしてしまった、目をつけられそうにない熟年馬である。村を調べて回った時に、一度見ていたので「やはり。」という思いはあった。だが、母国では騎兵として活躍していた二人。それでも愛着が湧き、無理をさせると気の毒だと、速歩(はやあるき)すら(ひか)えてきた。二日で来られただろう旅路に、三日を(つい)やすこととなったが。

 そうして到着したのは夕方。今からでは何も調べることができない。
 そこで二人は、通りの隅から隅まで全て把握(はあく)したうえで宿泊先を決め、この日はゆっくりと旅の疲れを(いや)した。

 そして翌朝、早速(さっそく)、調査を開始した。

 真っ先に向かったのは町役場だった。例の首輪が本来あったこの土地こそ何か事件が起きた、または起きるところだった、まさにその場所であると考えたからである。現に呪いは生きているので未遂の線が強く、首輪はここから離れたあの場所で身勝手に処分されただけなのでは・・・という思いもあったが、事件が起きていたとしたら、その状態でどうやって首輪を外したのかが分かる可能性もあり、同じ状況である今、それを知ることができたら、カイルの悩みはいっきに解消される。

 実際、二人の推理はこうだった。

 村という小規模な団体は、どこも家族的である。特別裕福な者も普通はいない。(ねた)(うら)みつらみが生じたとしても、わざわざ金をかけて町から宝飾品を用意するなど、そこまで()った真似をするはみ出し者がいるだろうかと。それなら、本来その首輪が作られた町での問題と考える方が自然である。

 そして犯行を(くわだ)てた者は、少なくとも術使いではない。それなら自分で浄化できるからだ。そもそも術使いが利己(りこ)的に呪詛(じゅそ)を行うのは御法度(ごはっと)であり、どの国でも呪い殺すなど、つまり殺人は犯罪行為である。それでもやる者がいるので、浄化という解決方法もまた存在する。

 リンが呪いに支配される時の行動から、標的は首輪を身に着けるとされた者ではなく、その家族など親しい関係にあった複数の者。だが、あれでは無差別だ。だから恐ろしくなって考え(あらた)めた。ところが、浄化して無かったことにしようにも、呪詛に金をつぎ込みすぎて足りなくなった。

 そこで、犯人は遠く離れた場所に隠すことを考え、あのやしろはもともとあったもので偶然その存在を知っており、独りよがりに封印するかのごとくその中に埋めてしまうことを思いついた・・・とまあ、単純に考えればこんなところ。

 とりあえずは、犯行が行われた場合と未遂に終わった場合の両面から調べていくつもりだが、もし事件が起きていた場合に、その詳しい話を知るのに、役場や情報局を利用するのは効率的である。

 都合よく、このリディバの町役場には、その情報局が併設(へいせつ)されていた。情報局では、大陸各国で起こっている紛争(ふんそう)、そして、政治や情勢などの公開情報も閲覧(えつらん)することができる。

 町の様子は、見た感じ平和そうだった。繁華街を通り抜けて行けば、活き活きとした話し声や笑い声に出会う。役場の前の広場では、子供たちが元気よく駆け回っていた。

 しかし、人口も多く多種多様な人々で(にぎ)わう町。家族的な小さな村より、よほど怪しく臭う。怨恨(えんこん)による不穏(ふおん)な動きの三つや四つ、普通に起こりそうだ。

 森のやしろの意味が、ただの気休めの番人みたいな肩透かしな結果に終わらないことを願いつつ、エミリオとギルは役場の出入口へ向かう。
 赤い円蓋(えんがい)屋根の塔を(よう)した建物にたどり着き、大きな(ひさし)が突き出している玄関ポーチを通って入館すれば、分かりやすく真正面に案内所と、低いテーブルを三人掛けのソファーが囲んでいる休憩スペースが目に入る。絵画や季節の花もセンス良く飾られている、清潔で快適なフロアが用意されていた。上層機関からいつ誰がやって来ても、堂々と迎え入れることができるエントランスホールだろう。

 エミリオもギルも、ぐるっと首を巡らして感心しながら案内所の前へ。

 するとそこには、我を忘れて顔を赤らめたまま呆然(ぼうぜん)としている受付嬢がいる。自覚に欠けるエミリオは、どこか具合でも悪いんじゃないかと彼女のことを心配しながら、簡単に用件を伝えた。

 我に返った受付嬢から窓口を教えてもらい、案内所の後ろに見えている階段を上がって、二階の広い事務室へ向かう。

 そこには、手持無沙汰な感じで順番を待っているらしい多くの人がいた。つまり、一方で職員はみな忙しそうにしている。手続きに来たわけではない二人は、受付嬢から教えてもらった窓口のカウンターへ行き、人が引くのを待ってから、話ができそうな人物を探してもらえることになった。

 (せわ)しない物音が響く広い室内。

 なかなかその人物は現れず、二人が行儀よくその場で待っていると、後ろから突然、派手に靴音をたてて近づいてくる気配がした。どうやらお怒りのよう。何も悪いことなどしていないのに、勝手に肩が(すく)む。

「いつまで待たせるつもりなのっ。」

 驚いて目を向けるエミリオと、そしてギル。

 左隣の窓口に、イライラと声高に(わめ)いている恰幅(かっぷく)のいい中年女性がいた。


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