17. リンが大変・・・!
文字数 1,700文字
レッドとリューイ、そしてカイルは、寝泊まりする場所をすでにリンの家に変えてもらっていた。エミリオとギルが抜けているあいだも、三人だけで毎晩リンを見守った。事が起こる度に疲弊 したが、どうにかその日その日を凌 ぐことができた。
そんなリンも、ふだんはほかの子と同様に愛らしい少女。
村の子供たちは最近、レッドとリューイの二人が相手をしてくれるので〝ごっこ遊び〟にはまっている。中身がまるで子供のリューイは心から楽しそうだが、レッドは正直恥ずかしい。役どころが決まって悪党なのが逆に救いだ。
しかし、子供たちと同じ時間、同じように遊んではいられない。食事はシャナイアがまとめて作って届けてくれるので助かるが、その片付けや井戸への水汲み、家畜の世話や畑仕事など、大人は何かとやることがある・・・が、人が忙しく働いている後ろから、早く、遅いなどと嫁をいびる姑 さながら、子供は言いたい放題お構いなし。やかましくて仕方がない。「待ってられない。」と聞き分けがないので、この日二人は、リンとミーアを先に行かせることにした。
ようやく一通り手伝いを済ませて、レッドとリューイは、子供たちが〝舞台〟と合い言葉にしている煉瓦 小屋の遊び場へ向かう。
「じゃあ、例の場所に早く来てね。」とリンが残して行ったその意味が分かるので、それで通じてしまう二人は、もうすっかり同世代のお友達だ。
今日の芝居は何だろなと、リューイは元気よく、レッドはため息をつきながら悠長 に歩いていた。
すると、何やら大あわてで駆けてくるミーアとルクレの姿が見えた。
「お兄ちゃんたち、走って!」
ルクレが手招きながら叫んでいる。
「まったく・・・遊ぶ時間はまだ幾 らでもあるだろうに。」
呆 れてそう言うレッドに、リューイも苦笑 いで応えた。
「リンが大変、早く、早く!」
ミーアのその声を聞いたとたん、二人は同時に地面を蹴 った。
瞬く間に少女たちを追い抜かし、飛ぶ勢いで坂道を駆けくだる。身体能力はどちらもズバ抜けて高いが、猛獣と共にジャングルで育った野生児リューイのそれは常識を超えている。
煉瓦 小屋を回ってきたリューイは、集まっている子供たちの足元に、小さな体が横たわっているのを見た。昼間にもリンが狂って暴れ出したと思い込んでいたので、一瞬 焦 ったリューイだったが、よく見ると、その緋色 のワンピースは、今朝リンが着ていたのと同じものだ。
間もなく駆けつけたレッドも、子供たちの中へ入って狼狽 しながら腰を落とした。リューイと同じことを思っていたため、倒れているのがリンであると分かると、幸か不幸かという複雑な面持ちに。とにかく急いで状態を確認すると、気を失っているだけで息があった。ひとまずホッとした。これぞ幸いなことに、とりあえず全員無事だ。ただ、詳しいことが分からないだけに、安心しきることはできない。
「急に座りだして、それから寝転がって・・・。」
「さっきまでハアハアって。」
「そう、泣きながら。」
子供たちは口々に報告してくれる。
体が辛 くて、泣き声に似た悲鳴を漏らしていたのだろう。
「そういえば、朝飯食う時、リンお腹すいてないって。」
リューイが思い出して言った。
「食欲がないってことかよ。」
子供のそれは、時としてそういう意味になることがある。幼い子を持つ親なら気付くことができたかもしれないが。さらに、リンは不調を感じても遊びたさが勝ってしまい、無理をしていたと思われた。
「とにかく、運ぼう。」
レッドは、横を向いてぐったりしているリンの体を抱き上げた。
「俺、カイルを呼んでくる。」
「あいつめ、こんな日に限って朝早くから出掛けやがって。」
レッドは悪意なく文句を呟 いた。
カイルは、手持ちの薬に余裕が無くなってきたからと、今日は休診にして、早朝から薬草摘 みに出かけているのである。洞窟 の向こうの河原のあたりと、そのだいたいの場所も聞いてはいた。だが、医者で精霊使いでという唯一 の存在であるのに、ここぞという時にいなくなられたのでは、思わず文句の一つも言いたくなる。
そのカイルを呼び戻すために、リューイの方は村で一番広い坂道を駆け上がって行った。
そんなリンも、ふだんはほかの子と同様に愛らしい少女。
村の子供たちは最近、レッドとリューイの二人が相手をしてくれるので〝ごっこ遊び〟にはまっている。中身がまるで子供のリューイは心から楽しそうだが、レッドは正直恥ずかしい。役どころが決まって悪党なのが逆に救いだ。
しかし、子供たちと同じ時間、同じように遊んではいられない。食事はシャナイアがまとめて作って届けてくれるので助かるが、その片付けや井戸への水汲み、家畜の世話や畑仕事など、大人は何かとやることがある・・・が、人が忙しく働いている後ろから、早く、遅いなどと嫁をいびる
ようやく一通り手伝いを済ませて、レッドとリューイは、子供たちが〝舞台〟と合い言葉にしている
「じゃあ、例の場所に早く来てね。」とリンが残して行ったその意味が分かるので、それで通じてしまう二人は、もうすっかり同世代のお友達だ。
今日の芝居は何だろなと、リューイは元気よく、レッドはため息をつきながら
すると、何やら大あわてで駆けてくるミーアとルクレの姿が見えた。
「お兄ちゃんたち、走って!」
ルクレが手招きながら叫んでいる。
「まったく・・・遊ぶ時間はまだ
「リンが大変、早く、早く!」
ミーアのその声を聞いたとたん、二人は同時に地面を
瞬く間に少女たちを追い抜かし、飛ぶ勢いで坂道を駆けくだる。身体能力はどちらもズバ抜けて高いが、猛獣と共にジャングルで育った野生児リューイのそれは常識を超えている。
間もなく駆けつけたレッドも、子供たちの中へ入って
「急に座りだして、それから寝転がって・・・。」
「さっきまでハアハアって。」
「そう、泣きながら。」
子供たちは口々に報告してくれる。
体が
「そういえば、朝飯食う時、リンお腹すいてないって。」
リューイが思い出して言った。
「食欲がないってことかよ。」
子供のそれは、時としてそういう意味になることがある。幼い子を持つ親なら気付くことができたかもしれないが。さらに、リンは不調を感じても遊びたさが勝ってしまい、無理をしていたと思われた。
「とにかく、運ぼう。」
レッドは、横を向いてぐったりしているリンの体を抱き上げた。
「俺、カイルを呼んでくる。」
「あいつめ、こんな日に限って朝早くから出掛けやがって。」
レッドは悪意なく文句を
カイルは、手持ちの薬に余裕が無くなってきたからと、今日は休診にして、早朝から薬草
そのカイルを呼び戻すために、リューイの方は村で一番広い坂道を駆け上がって行った。
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