2. 少女の首飾り
文字数 2,635文字
まるでこの世とは別世界へと続いていそうな、穏やかで
一行は、案内札もまばらで右も左も分からなくなりそうな、とにかく広大なこの森を、もう何日も歩き続けていた。
そしてある日のこと・・・。
「お姉ちゃん、すごく綺麗だね。」
そう声を掛けられたシャナイアは、一人の少女と笑顔で向かい合っていた。
その子はなにも不意に現れたわけではなく、それまでは、浅い川のほとりで休憩をとっていた一行の対岸にいた。その場所で、桶に入った洗濯物を川の水で洗っていたのである。
そして手が止まった時、「家のお手伝いをしているのね・・・。」と、やや遠目に眺めていたシャナイアの方へ、川をじゃぶじゃぶと横断して、少女の方から近づいて来たのだ。
肩にかかる茶色の髪と、灰色がかった緑色の瞳。いかにも
「まあ、なんて正直者で素直ないい子なのかしら。」
「お兄ちゃんも。」
「は⁉」
シャナイアが変な声で驚いたのも無理はない。それもそのはず、次に少女は、綺麗なんて言葉とは最も無縁のレッドを見て、それを言ったのだから。
言われた本人も、この子はひょっとして目が悪いのか?という顔をしている。
すると少女は、そのあとも一人一人に同じことを言って回った。
「この子・・・見えてるんだ。僕たちのオーラが。」
それは神精術師レベルの強烈な霊能力を秘めている証拠・・・である。
そう驚いているカイルだが、少女が近づいてきた時点で、実はそれよりも気になることがあった。そのせいでカイルは、
呪い・・・である。
「不自然に綺麗な首飾りをしているな。」
ギルは、今隣にいるエミリオにだけ聞こえるように・・・要するに、少女には聞こえないように
そう、その少女は大人の首飾りをしていた。パールを編み込んだようなクリスタルリングの真ん中に、水色の天然石をあしらい、胸元にもそれが二つぶら下がっているのが魅力的な。肥満体型ではない子供ゆえ、首が細いのでじゅうぶんな余裕があるが、成人女性が着ければぴったり首に
だが、まさにその首飾りこそが、カイルとエミリオの二人が、内心顔をしかめて強く引き付けられているものだった。
「これ・・・。」
「カイル・・・。」
「うん・・・間違いない。」
鋭く
呪いを感じる・・・とは、少女の前では言えなかった。
カイルは、腰を落としてその少女と向かい合った。それから、わざとらしいほど、にこやかにこう話しかけた。
「とっても綺麗な首飾りだね。それちょっと見せてくれる?」
「うん、でも・・・取れないの。」
「え・・・。」
これは、ますます放ってはおけなくなった。そこでカイルは、少女に後ろを向いて髪を横へ
エミリオと目を見合ったカイルは、そこに指をかけてみる。
なるほど・・・びくともしない。
そうと分かると、カイルとエミリオの視線は、同じタイミングで仲間のうちの一人に向けられた。
格闘家の青年に。
そのリューイの
その自覚がリューイにもあるので、リューイは
ところが、結果は同じで、何度か試みたがどうにもならない。
不思議なのは、リューイは短気でがさつなところがあるため、普通なら壊れそうなもの。しかし、天然石のその首輪は、可愛い見た目によらず随分と
それを確かめた精霊使いのカイルは、知りたいことを少女に質問し始めた。
「これ、誰かからもらったの?」
「ううん、森の土の中で見つけたの。綺麗だったから首につけてみたら、それから取れなくなっちゃったの。」
いかにも怨念の臭いがぷんぷんする答えである。
「ねえ、名前は?いくつ?」
「私はリン。八歳。」
「どこに住んでるの?」
「あっちの村。」
「遠い?」
「ううん。すぐそこ。」
リンと名乗った少女は振り返って、渡ってきた対岸の向こうを指差してみせた。
今日ここへ来るまではずっと、大した
カイルは、地図を持っているエミリオに目を向けた。
彼らは大陸全図と、行く先々で購入する地域図の二種類を持っている。エミリオはもうその地域図を広げており、ギルと確認していた。
「
カイルは、リンに向き直る。
「あのさ、僕たち旅人なんだけど、いろいろ足りなくなってて大人の人に相談したいから、君の村に連れて行ってもらえるかな。」
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