11. やしろと首輪

文字数 1,576文字

 キースの道案内のもと、それから間もなくやってきたレッドとリューイは、まずは二人の無事を確認して胸を()で下ろした。そして、そのあと、目の前に(たたず)む、無視できない珍しい建物を注視する。

「こんなものが・・・。」
 下から上まで眺め回して、レッドはじっくりとその建物を見た。

 神を(まつ)る建物といえば、町には石灰岩(せっかいがん)花崗岩(かこうがん)でできた周柱式神殿などが見られるが、石材は基礎と床に使われているだけで、あとは木造である。だが、恐らく相当質のいい木材で造られ、腕のいい職人が手掛けたらしく、年期を感じさせながらも立派なものだ。基礎からしっかりと建っていて、奥行きはないものの、いちおう雨風が(しの)げる洞窟の中にあるおかげもあってか、たいした劣化(れっか)も見られない。それは、素人(しろうと)には真似できない、浮き彫りの装飾まで丁寧に施されてあることからも分かる。

 そして中には、奥の中央に、高さ一メートルほどの木彫りの神像が一体、何の飾り気もなく安置されている。

 レッドはふと(ひらめ)いた。
「なあリン、その首輪を見つけた場所って、もしかしてここなのか?」
「うん。このおうちの土の中だよ。」
「土の中?」

 思えば、出会った時もリンはそう言っていた。だがリンが指をさしているのは、やしろの中だ。

 不可解に思いながらも足を踏み入れたレッドとリューイは、床の一箇所に、不自然な切れ目を見つけた。あとから手を加えて貼り直したらしい、二十センチ四方ほどの小さな石板。それを(まく)り上げてみると、中はなるほど土である。

 (ふた)になっていたものをつまみ上げているそのまま、レッドはやや思案した。
「何か関係ありそうだな。」





 その日の午後、レッドとリューイの報告を受けたエミリオとギル、そしてカイルの五人だけで、その怪しいやしろを調べに行くことになった。 

 そそり立つ断崖(だんがい)と川沿いにある遊歩道は、昔からか人工的に手が加えられていて、手摺(てす)りになる(さく)もある。

 石の()け橋を渡り、さらに突き進むこと十分。

 やがて、幻想的な雰囲気の洞窟と、神秘的な建物が現れる。恐らく河原(かわら)へとまだ続いているこの道の先は、急に広くなっていて、ほかからも回ってこられるようだ。

 そして、途中の川沿いにあるこの洞窟からは、流れはまだずっと眼下に見えている。大雨で増水しても問題はなさそうだ。岩山がざっくり(えぐ)られたような形状で、半ドーム屋根のように頭上を覆う大きな洞窟だが、奥行きはない。洞窟の前が川になっているおかげで、天気が良い日、そこだけは日当たりも良くなる。そんな時には、洞窟の不気味なイメージはいっきに払拭(ふっしょく)されるだろう。だいいち、そこに鎮座(ちんざ)しておられるのはきっと神様。不気味などと言っては(ばち)が当たってしまう。

 というのは、その神秘的な建物は、カイルが見たところ、恐らく森の神を(まつ)るやしろ。

 ひと通り辺りを見回した五人は、最も怪しく興味を引かれるそれに、そろって注目した。そして首輪との関係を、それぞれが思い思いに考えてみる。

「呪いとやしろ・・・呪いを(しず)めるためのやしろ・・・か?」
 ギルは腕を組んで、まず誰もの頭に浮かんだだろうことを口にした。

「うーん・・・でも、この建物に、特に何かを感じるってことはないんだけど・・・。今は・・・かもしれないけどね。何かを起こす方法とかあるのかもしれないけど・・・。」
 カイルもじっくりとやしろを眺め、レッドが開けてみせた床の土を見つめて、思索(しさく)にふけった。

「いつ何があったのか・・・。」

 エミリオのそれは、無闇(むやみ)に調べだしかねなかったカイルを(みちび)く言葉。そしてギルが、その第一歩をズバリ示した。

「その本来の出来事と、これが造られた理由を調べる必要があるな。」と。

 そのあと五人は、ほかにも何か分かりはしないかと、やしろだけでなく洞窟中もくまなく見て回った。だが、これといってヒントをくれそうなものは、もう何も出てはこなかった。

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