第17話 自殺者の顔

文字数 1,078文字


 若くして亡くなった叔父の部屋を寝室にしてから、おかしな夢を見る。

 私は階段をのぼっている。
 一階、二階、三階……どこまでも、のぼる。

 目の前にドアがある。
 あけると、屋上だ。
 薄曇りの空が見える。
 そのとたん、私は走りだす。

 やめろ。どこへ行く気だ?
 わかってるのか?
 ここは屋上だぞ。

 だが、夢のなかの私は走り続ける。
 やがて、空を切る。
 たちどころに落下する——
 地面にぶつかる激しい衝撃とともに、私はとびおきた。

 こんなことが続いた。
 私は父に相談してみた。

「あの部屋に移ってから、夢見が悪い」
「どんな夢だ?」
「屋上からとびおりる夢」

 父は黙りこんだ。
 数分もしてから、
「くわしく話してみろ」

 私は夢の情景を語った。
 父の顔色がみるみる変わっていく。
「それは、雅之かもしれないな」

 私は初めて聞かされた。
 叔父の死が自殺だということを。
「病気を苦に自殺したんだ。病院の屋上からとびおりて……」

 なるほど。それなら、あの夢は叔父なのかもしれない。

「顔を見たか?」と、父は言う。

 私は首をふった。
 夢のなかで、私はその自殺者だ。
 自分の顔を自分で見ることはできない。

 父はホッとしたようだ。
「そうか。ならいい」

 父に話して安心したのか、私はその夢を見なくなった。

 数年後、父が病気で亡くなった。
 叔父と同じ癌だ。
 苦しみぬいたすえ、うわごとを言いながら亡くなった。

「……すまない。雅之。ほんとは、おまえは良性だったんだ——!」

 父の葬式のあと、私はひさしぶりにあの夢を見た。

 階段をのぼっていく。
 何かにひきずられるように。

 ダメだ。行くなと思うのに、体が勝手に動く。
 屋上のドアをあけ、かけだす。

(やめろ! 叔父さんは手術すれば治るんだ!)

 だが、私の心の叫びは虚しく、叔父は手すりをのりこえ、とびおりる。

 そして、私は見た。
 自殺者の顔を。
 それは叔父ではなかった。
 私自身だ。

 目覚めたあとも、しばらく、私の心臓は早鐘を打っていた。

 なぜだ? あれは叔父じゃなかったのか?
 なんで私が自殺するんだ?

 気持ちを落ちつかせるために洗面所に行き顔をあらった。鏡をのぞいた私は愕然とした。

(違う……)

 あれは私じゃない。
 やっぱり雅之叔父さんだ。
 なぜなら、ホクロの位置が逆だから。
 私は左目の下に泣きぼくろがある。
 だが、あの自殺者には右目の下にあった。

(じゃあ、なんで顔が瓜二つなんだ?)

 考えるうちに薄ら寒くなった。

 そうか。そういうことなんだ……。
 だから、父はウソをついて、叔父を死に追いやった。

 そう。叔父を殺したのは父だ。
 そして、私は——
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