第27話 ザクロ館

文字数 1,144文字



 これは、わたしが祖母から聞いた話です。

 祖母が子どものころ、となりにお屋敷がありました。その屋敷は、ザクロ館と呼ばれていました。門を入ってすぐのところに、りっぱなザクロの木があるからです。

 ザクロ館には、麗子さんという、とても美しいお嬢さんがいました。あたりの男の子は、みんな、麗子お嬢さんに夢中でした。
 ただ、このお嬢様、容姿は端麗ですが、身持ちは、あまり、よくなかったようです。

 麗子さんは、すでに中学生のとき、そういうウワサがありました。二十も年上の妻子持ちの男の子どもを身ごもったらしい——と。
 しかし、そのウワサは、いつのまにか消えました。何ヶ月たっても、麗子さんのお腹が小さかったからです。

 そのあと、また麗子さんは、別の男といるところを、よく目撃されました。以前と同じウワサがたちましたが、またすぐに消えました。
 そんなウワサが、くりかえし人の口にのぼりました。

 ある夜、夜中に目がさめた祖母は、外のかわやに行きました。

 どこからか、ザクザクと音がします。どうやら、となりの家から聞こえてきます。塀のふし穴から、のぞいてみました。すると、あのザクロの木の下を誰かが、ほっています。よく見ると、麗子さんでした。

 麗子さんは、しばらく土をほり続けました。そして、その穴に何かをなげこみました。そのまま、麗子さんは穴を埋め、お屋敷のなかへ入っていきました。
 赤ん坊が埋められたと、祖母には、すぐわかったそうです。なぜなら、祖母は……。

 翌朝、セーラ服姿の麗子さんに会いました。

「こんにちは。優子ちゃん」と、麗子さんはステキな笑顔で、あいさつしてくれます。

 祖母は何も言えず、もごもごと口ごもりました。
 祖母には、麗子さんが怖くて、しかたありません。

「ねえ、優子ちゃん。うちのザクロ、もらってく? たくさん実がなったのよ。うちじゃ、わたし以外、誰も食べないから」

 祖母は首をふりました。
 それを見て、麗子さんは、ふふふ、と笑います。

「優子ちゃんは知ってるのね? ザクロの実は人間の味がするんですって。だから、うちじゃ誰も食べないのよ」

 なるほどなと、祖母は思ったそうです。
 なぜなら、祖母は“見える”人だったから。

「じゃあね。優子ちゃん。また今度」

 お屋敷の前について、麗子さんは手をふりました。門をくぐると、ザクロの実をひとつ、もぎとり、かじります。

 祖母は、ゾッとしました。
 麗子さんは、いったい、どれほどの数の赤ちゃんを、あの木の下に埋めたのでしょう。
 祖母には、ザクロの実のすべてが赤ん坊に見えます。

 そして、それを平気で食べる麗子さんの体にも、おおいつくすように、すずなりの赤ん坊が……。
 麗子さんの美しい顔も、もう見ることはできません。
 赤黒い赤ん坊に、かくされて——
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