第20話 影の薄い人

文字数 830文字



 これは、僕の友達から聞いた体験談です。
 仮に、Aさんとしときましょう。

 Aさんは、その夜、自転車でコンビニに買い物へ行きました。
 Aさんの住んでるのは地方都市なので、往復の道は、そこそこ暗いです。
 帰り道、横断歩道の途中に、男が立っているのが見えました。

 Aさんは、とまどいました。
 なぜなら、男の姿が、ほんのり透きとおっていたからです。

 なんというのでしょうか?
 まるで、それは影のように見えたそうです。
 体全体が薄く黒く、そして、透きとおっている……。
 それでも、顔はハッキリ見えました。
 とても、まじめそうな若い男だったそうです。

 街灯から離れていたので、ちゃんと見えないだけかと、Aさんは思いました。

 とはいえ、Aさんは女の子。
 夜のそんな時間に横断歩道のまんなかに立ってるような不審人物と、かかわりあいになりたくありません。

 帰宅するためには、どうしても、そこを通らなければならなかったので、しかたなく、横断歩道を渡ることにしました。
 男をさけて、二メートルほど離れたところを、全力疾走で、走りぬけました。しかも、かなり手前から加速して。

 ふつうに考えれば、男の位置から、Aさんまで届くはずのない距離でした。速度的にも不可能です。

 すれちがう瞬間、男が言ったそうです。
「待ってください!」
 男が大声で叫んだ瞬間、Aさんは腕をつかまれていました。
 グイッと、自転車が倒れそうな力で、ひっぱられました。

 Aさんは必死で自転車をこぎました。
 かなりのスピードをだしているはずなのに、男はAさんの手をつかんで離しません。そのあいだ、ずっと、全速力で走る自転車に追走してることになります。
 とても、人間業とは思えませんでした。
 Aさんは男をつきとばし、なんとか逃げだすことができました。

 その男、ただの痴漢だったのでしょうか。
 Aさんは今でも悩んでいます。
 ただ、その横断歩道では、以前、酔った男が、そこに寝そべり、車にひかれて亡くなったということです……。
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