第32話 障子の穴
文字数 670文字
友人Sは少し前に、値段が手ごろで、ペット可のアパートに引っ越しました。
これは、そのSから聞いた話です。
そのアパートは築二十年で、和室がありました。
田舎なので、2DKで、間取りも広く、飼い猫と暮らすには申しぶんないと思ったそうです。
フローリングの部屋はリビングルームにして、その奥の和室を寝室にしました。
和室とリビングルームのあいだは障子で仕切られています。
最初は、キレイな障子でした。が、引っ越してきたばかりのころから、その障子に、ポツリ、ポツリと穴があくようになりました。
位置が低いところばかりなので、飼い猫があけてるんだろうと思っていたそうです。
あるとき、リビングルームに正座して、洗濯物をたたんでいました。
ふと、視線に気づいて目をあげると、障子の穴から、誰かが、こっちを見ていました。
一瞬、ドキリとしましたが、よく見ると、人間の目じゃありません。
障子をあけて、裏がわを見ると、案の定、飼い猫がいました。
「やっぱり、おまえか。もう。こまったちゃんだなぁ。おまえが穴あけるから、出てくとき、障子、はりかえなきゃいけなくなったよ? もう、あけないでね」
飼い猫は、のんきに「ニャア」と鳴くばかり。
ところが、その夜です。
和室で寝ていたSさんは、真夜中に、ふと目がさめました。
ちょうど目の高さにある、障子の穴が視線のどまんなかにあります。
そこから、誰かが、こっちを見ています。
飼い猫ではありません。
なぜなら、飼い猫は、Sさんといっしょに布団のなかで寝ていましたから。
Sさんは早々にそこを引っ越したそうです。