第13話 光に浮かぶ影

文字数 1,132文字



 高校生活も残りわずか。

 だから、最後に思い出になることがしたかった。

 夜の学校に忍びこんで、肝だめししようって言いだしたのは、マナカ。エリナとテルミが、すぐに、いいねって言った。

 シズネは気乗りしなかったが、けっきょく、みんなに押しきられた。

 マナカが日にちや時間を決めた。

 集合場所や校内で歩くルートとか。

 でも、それが、テルミにはシャクみたいだ。

「ねえ、ちょっと、マナカのこと、からかってやろうよ」と、言いだした。

「からかうって?」

「マナカにだけ見えるオバケとか、よくない?」

 つまり、こういうことだ。

 懐中電灯を二本、用意する。

 一本はふつう。もう一本は前もって、人型に切ったセロファン紙を貼りつける。

 最初はふつうの懐中電灯を使い、途中でオバケ付きと、すりかえるーーというわけだ。

 シズネは乗り気じゃなかった。

 が、テルミとエリナが、おもしろがって賛成した。

 当日の夜。まっくらな校舎に、うまく忍びこんだ。

 けっこうハラハラしたけど、シズネのテンションは上がらない。

 三階の教室まで行った。

 マナカたちは屋上に上がりたがった。

 が、そこには出られない。一ヶ月前、飛びおり自殺した生徒がいるからだ。ドアを施錠されている。

 暗い教室。

 懐中電灯の光で、整列した机が見える。

 窓辺に黒い影が見えたような気がした。

 人影?

 シズネが見直そうとしたとき、すっと、懐中電灯が消えた。一瞬、何も見えなくなる。

 しばらくして、また、すうっと光がついた。

 懐中電灯の丸い光のなかに、人影が浮かんでいる。

 予定どおり、テルミがオバケ付きに、すりかえたのだ。

 テルミは自分でやっておきながら、キャアッと悲鳴をあげる。迫真の演技だ。

 エリナは、わざとらしく、キャアキャアさわぐ。

 つられて、マナカが、おびえた声をだす。

 急に叫んだのは、テルミだ。

「イヤ! 来ないで!」

 いったい、どうしたんだろう?

「テルミ。どうしたの?」

 テルミは、よろめきながら窓のほうへ歩いていく。

 正直、やりすぎだ。

 顔なんか、ひきつって、ものすごい形相だ。

 さすがに、エリナが、あきれた声をだす。

「ねえ、もういいよ。その懐中電灯、消せば?」

 すると、テルミは首をふった。

「まだ……つけてないよ」

「えッ?」

 そういえば、あの光のなかの影、よく見ると髪がゆれている。用意していたオバケとは、何かが違う。

「じゃあ、いったい、なんなの……? あれ?」

 シズネとエリナは、とまどうばかり。

 ただ、背後から、何かが近づいてくる気配があった。

 あの光のなかに、影を作る何かが……。

「ねえ、先月。自殺した子がいたよね」

 テルミの声がふるえている。

「それって、ふためと見られない死体だったって……」

 それが近づいてくる。
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