第6話 結局船を手に入れた話 前編

文字数 483文字

 男と話している間に事態は変化していた。
私は、波の音に紛れて聞こえる音を無意識に拾っていた。

「海から何か来る」

 私の言葉に男は驚き星空の月で照らされている静かに揺れる海面をじっと見つめた。

「俺には何も見えないぞ?」
「音が聞こえる。何かが擦れるような?」

 私もこの音が何かわからなく不安になる。
音は、接近しているのか少しずつ大きくなる。

「なんだ船か」

 男が指し示した方をよく見る。
そこには、大きな丸太をくりぬいたような簡素な浮遊物がある。
それを人間にしては華奢な何かが艪を漕いでいた。

「ずいぶん器用ね」

 私が感心していると男は口笛を吹いて呟く。

「ありゃエルフの女じゃないか……。こんなところで会えるとは運が良い」

 私は、何が運が良いのかの是非を置いておく。
もう一度よく観察してみると、確かに人間とは違う匂いがした。

「あの船ならここからの移動は簡単?」

 私の問いかけに男は考え込む。

「吸血鬼のお姫様でも船を漕げると思えないし俺も漕げないし……。あの船を漕いでいるエルフが手伝うなら簡単になるよ」

 なるほど。
では、この男の言う通りエルフの女性には手伝ってもらう事にしよう。
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