第14話 酒場で目覚めた話

文字数 660文字

 吸血鬼も眠るかどうかわからなかったが、結果的には人間の時と同じ睡眠を体感した。

「吸血鬼のお姫様の寝顔って可愛かった……」

 男が変なことを言っているので、空になった酒樽を男に優しく被せて黙らせた。

「朝から仲が良いわね」

 エルフのお姉さんが変なことを言う。
 客観的に見て仲良く見えるとは思えないのだが。

「それで酒樽を被っている人間はそのままにして、今日はどうするの?」

 エルフのお姉さんの問いに私は考えた。

「私は、吸血鬼を売ってお金貰いたいのよ」

 相変わらずとんでもない事を言うエルフのお姉さん。
思わずエルフのお姉さんの首に噛みついてしまった。

「また血を吸われた!!!」

 吸血鬼の本能を満足させたところで酒樽を被った男とエルフのお姉さんを引き連れて宿を出た。
 空は快晴。
 風邪は穏やか。
 野良犬に噛まれていた酒樽に差し込まれているごろつき達が視界に入らないなら良かったが。

「ここから近いところで何か変わったものとか場所とか知らない?」

 とりあえず血色が悪くなっているエルフのお姉さんに尋ねる。

「私、吸血鬼の餌になって生きていくのね……」

 失礼な。
 餌ではなくデザートです。

「そんなことより追跡者に追われている事を忘れているだろう!」

 酒樽を被った男が、酒樽で反響したくぐもった声で叫ぶ。

「酒樽を被ったまま叫んで……。大きな音が原因で難聴になるよ?」

 私が優しく指摘すると、懲りずに男は酒樽を被ったまま叫んだ。

「お前がニコニコ笑いながら酒樽をかぶせたのだろうが!」

 この男には、忠告を聞くことも学習する能力も無いのだろうか?
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