第1話 最後のシュート
文字数 1,162文字
11月末、朝から秋晴れの日曜日。
北信越大学バスケットボール選手権、5チームの総当たりでのリーグ戦を戦っていた越中大学バスケットボール部は、2勝1敗の成績で最終戦を迎えていた。
第4クォーターも残り15秒、一進一退の攻防を相手チームと続けていた越中大学は、直前のディフェンスタイムを凌ぎきり、おそらく最後のオフェンスになるであろうワンプレイを前にして、タイムアウトを取った。
残りの15秒間をどう使うべきか…綿密に作戦がとられる。何より誰をフィニッシャー、つまり最後にシュートを打たせるかを、コートで戦うメンバーがイメージをしていく。そして、仲間のスクリーンプレイを使ってフリーな状態になり、パスを受け、斜め45度の位置から切り込んでシュートを放つよう指示を受けたのは、副キャプテンの呉羽隆二だった。
呉羽は中学、高校とバスケ部で過ごし、一般受験で入った越中大学でも、もう少しやりたいという想いで練習を続けていた。ケガも病気もなく、休むことなく練習に励んできた呉羽の強みは、成功率の高い正確なミドルシュートだ。緩急をつけたドリブルから相手をかわして放つレイアップシュートも武器だ。ゴールを決める確実性の高さから、最後の攻撃は呉羽にボールが渡る作戦に決定した。
審判が笛を吹き、コート外からボールが味方の手に渡る。時計が動き出す。数秒間、味方の選手たちはコートの中央近くでパスを回し、様子を見る。残り8秒、呉羽をマークしていた相手のディフェンダーに、味方がスクリーンプレイを掛ける。見事にディフェンダーの動きを封じ、呉羽は斜め45度の位置に駆ける。残り5秒、呉羽にパスが渡り、正面を向いた。その時、他の味方についていた別のディフェンダーが呉羽に詰め寄る。呉羽はジャンプシュートの態勢となり、飛び上がる。ディフェンダーは一歩だけ彼をブロックする位置まで間に合わなかったが、視線の片隅に、キャプテンの姿が映った。いま呉羽に寄ってきたディフェンダーがマークしていたので、彼は今はフリーになっている。一瞬、キャプテンにパスをするという選択肢が脳裏に浮かぶ。
だが、呉羽はボールを乗せた手首を前に返し、残り3秒でミドルシュートを放った。
ボールはゴールリングの端で跳ね、バックボードに当たり、落ちた先に相手選手の腕が伸びた。彼がボールをキャッチしたと同時に、ホイッスルが鳴った。
越中大学は一点差で敗戦した。リーグ戦2勝2敗、最終的にはリーグ戦3位。上位2チームが参加できる、全日本バスケットボール選手権大会に参加することは叶わなかった。そして、同時に確定したことがある。
呉羽を含む大学3年生が、部活動の一線を退くことだ。
その試合から2か月後。
「これからのユニフォームはこれになるのか」
呉羽はそう呟きながら、買いたてのスーツに袖を通していた。
(つづく)
北信越大学バスケットボール選手権、5チームの総当たりでのリーグ戦を戦っていた越中大学バスケットボール部は、2勝1敗の成績で最終戦を迎えていた。
第4クォーターも残り15秒、一進一退の攻防を相手チームと続けていた越中大学は、直前のディフェンスタイムを凌ぎきり、おそらく最後のオフェンスになるであろうワンプレイを前にして、タイムアウトを取った。
残りの15秒間をどう使うべきか…綿密に作戦がとられる。何より誰をフィニッシャー、つまり最後にシュートを打たせるかを、コートで戦うメンバーがイメージをしていく。そして、仲間のスクリーンプレイを使ってフリーな状態になり、パスを受け、斜め45度の位置から切り込んでシュートを放つよう指示を受けたのは、副キャプテンの呉羽隆二だった。
呉羽は中学、高校とバスケ部で過ごし、一般受験で入った越中大学でも、もう少しやりたいという想いで練習を続けていた。ケガも病気もなく、休むことなく練習に励んできた呉羽の強みは、成功率の高い正確なミドルシュートだ。緩急をつけたドリブルから相手をかわして放つレイアップシュートも武器だ。ゴールを決める確実性の高さから、最後の攻撃は呉羽にボールが渡る作戦に決定した。
審判が笛を吹き、コート外からボールが味方の手に渡る。時計が動き出す。数秒間、味方の選手たちはコートの中央近くでパスを回し、様子を見る。残り8秒、呉羽をマークしていた相手のディフェンダーに、味方がスクリーンプレイを掛ける。見事にディフェンダーの動きを封じ、呉羽は斜め45度の位置に駆ける。残り5秒、呉羽にパスが渡り、正面を向いた。その時、他の味方についていた別のディフェンダーが呉羽に詰め寄る。呉羽はジャンプシュートの態勢となり、飛び上がる。ディフェンダーは一歩だけ彼をブロックする位置まで間に合わなかったが、視線の片隅に、キャプテンの姿が映った。いま呉羽に寄ってきたディフェンダーがマークしていたので、彼は今はフリーになっている。一瞬、キャプテンにパスをするという選択肢が脳裏に浮かぶ。
だが、呉羽はボールを乗せた手首を前に返し、残り3秒でミドルシュートを放った。
ボールはゴールリングの端で跳ね、バックボードに当たり、落ちた先に相手選手の腕が伸びた。彼がボールをキャッチしたと同時に、ホイッスルが鳴った。
越中大学は一点差で敗戦した。リーグ戦2勝2敗、最終的にはリーグ戦3位。上位2チームが参加できる、全日本バスケットボール選手権大会に参加することは叶わなかった。そして、同時に確定したことがある。
呉羽を含む大学3年生が、部活動の一線を退くことだ。
その試合から2か月後。
「これからのユニフォームはこれになるのか」
呉羽はそう呟きながら、買いたてのスーツに袖を通していた。
(つづく)