第9話 Reality
文字数 1,633文字
先の一次選考会から10日後、呉羽は再度キャリアソウルの本社を訪ねていた。先日のメールには一次選考通過と、再度二次選考に参加して欲しいとの旨が記されていた。メールでやり取りをして、改めてこの日に訪れることになったのである。
しばらく待っていると、石動と共に背が高くがっしりとした体躯、少し日焼けし若々しい印象の中年男性が入ってきた。テーブルを挟み、呉羽から向かって中年男性が左手、石動が右手に座る。
先の選考通過を知らせるメールに面接官の詳細も書かれていたので、呉羽は彼が誰なのかを理解していた。
石動が話を切り出す。
「さて、また遠方からここまでお越し頂きありがとうございます。これから二次選考の面接を開始しますが、まず横におります当社代表取締役社長の鵜坂からご挨拶させて頂きます」
「鵜坂信二です。今日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
精悍な顔つきの鵜坂は、挨拶の声も力強い。呉羽の返しの挨拶もそれにつられて声量が増す。今回の面接官は社長、つまり会社のトップだ。以前買った面接の対策本に書かれていたのだが、会社のトップが出てくる面接というのは会社の事業内容やビジョンへの理解度だったり、ここで働きたいという意欲、やる気を試すような質問が多いという。だからどんな質問にも、前向きな印象を与える回答を心掛けるようにしていた。
だが、その想像とは違う形で面接は始まった。石動が言う。
「今回二次選考ですが、率直に申し上げると呉羽さん、我々はあなたを採用したいと考えています。あなたはこの場で、よほど傍若無人な振る舞いをしない限りはそのように考えています。
そして今回の面接の目的は、我々が呉羽さんをどのような方だと感じているかをお伝えし、もし入社となった場合の仕事への向き合い方を考えて頂くことです。呉羽さんへの我々の期待や、望みたい活躍のイメージもお伝えしたい。最終的にはこの面接を終えて、呉羽さんにも当社で本当に働きたいかを考えて頂きたいと思います」
続けて鵜坂が話す。
「こういう形の面接を、私たちは大事にしています。よくある選考の流れでは、案外企業側が採用する人に『なぜ採用を決めたか』をはっきり伝える場面は少ないのではないでしょうか。でもこれは、企業側の期待と入社する方の希望が噛み合っているかどうかを、お互い知るために大切なことだと考えています。
採用した人が働き始めた後、あちこちの会社から聞こえてくる『こんな人だとは思わなかった』『思っていた会社と違う』というネガティブな言葉。そこから早いうちにその人が辞めてしまう。この原因の多くはね、『採用できること』『入社できること』をゴールにしているからなんですよ。採用選考が進むにつれて生まれてきた前向きな関係を維持したくて、企業側は自社の組織的な問題を、そして求職者側は自身の苦手なことを、言わないし、聞かない。あるいは脚色したり、ぼやかしたり、ごまかして伝える。要は、お互い嫌われたく無いんですよ。
私たちは仕事柄、そんな会社や求職者の方々をたくさん見てきました。大切なのは『入社してから満足な結果を得られること』、すなわち求職者は活躍し、企業側はそれにより組織や事業が成長することです。そのためには、選考を通してお互いが表面上の良い関係だけでなく、もっと深く理解しあうことが大切です。
だから我々の新卒採用活動においても、さすがに事業に関わる社外秘の機密情報は別ですが、それ以外の自分たちのことはオープンに話し、学生の皆様にも我々に対する本音の想いを打ち明けて欲しいので、そのつもりで話を聞いてください」
呉羽は鵜坂の話を聞き入っていたが、ということはこの後、キャリアソウルの呉羽に対する印象や評価が二人から伝えられるのだろうか。それも忌憚のない内容で。少し緊張が走る。
そして、石動が話し出す。
「さて、この選考を通して我々が抱いた呉羽さんへの印象をお伝えします。あなたは端的に言えば、『中途半端な人』ですね」
(つづく)
しばらく待っていると、石動と共に背が高くがっしりとした体躯、少し日焼けし若々しい印象の中年男性が入ってきた。テーブルを挟み、呉羽から向かって中年男性が左手、石動が右手に座る。
先の選考通過を知らせるメールに面接官の詳細も書かれていたので、呉羽は彼が誰なのかを理解していた。
石動が話を切り出す。
「さて、また遠方からここまでお越し頂きありがとうございます。これから二次選考の面接を開始しますが、まず横におります当社代表取締役社長の鵜坂からご挨拶させて頂きます」
「鵜坂信二です。今日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
精悍な顔つきの鵜坂は、挨拶の声も力強い。呉羽の返しの挨拶もそれにつられて声量が増す。今回の面接官は社長、つまり会社のトップだ。以前買った面接の対策本に書かれていたのだが、会社のトップが出てくる面接というのは会社の事業内容やビジョンへの理解度だったり、ここで働きたいという意欲、やる気を試すような質問が多いという。だからどんな質問にも、前向きな印象を与える回答を心掛けるようにしていた。
だが、その想像とは違う形で面接は始まった。石動が言う。
「今回二次選考ですが、率直に申し上げると呉羽さん、我々はあなたを採用したいと考えています。あなたはこの場で、よほど傍若無人な振る舞いをしない限りはそのように考えています。
そして今回の面接の目的は、我々が呉羽さんをどのような方だと感じているかをお伝えし、もし入社となった場合の仕事への向き合い方を考えて頂くことです。呉羽さんへの我々の期待や、望みたい活躍のイメージもお伝えしたい。最終的にはこの面接を終えて、呉羽さんにも当社で本当に働きたいかを考えて頂きたいと思います」
続けて鵜坂が話す。
「こういう形の面接を、私たちは大事にしています。よくある選考の流れでは、案外企業側が採用する人に『なぜ採用を決めたか』をはっきり伝える場面は少ないのではないでしょうか。でもこれは、企業側の期待と入社する方の希望が噛み合っているかどうかを、お互い知るために大切なことだと考えています。
採用した人が働き始めた後、あちこちの会社から聞こえてくる『こんな人だとは思わなかった』『思っていた会社と違う』というネガティブな言葉。そこから早いうちにその人が辞めてしまう。この原因の多くはね、『採用できること』『入社できること』をゴールにしているからなんですよ。採用選考が進むにつれて生まれてきた前向きな関係を維持したくて、企業側は自社の組織的な問題を、そして求職者側は自身の苦手なことを、言わないし、聞かない。あるいは脚色したり、ぼやかしたり、ごまかして伝える。要は、お互い嫌われたく無いんですよ。
私たちは仕事柄、そんな会社や求職者の方々をたくさん見てきました。大切なのは『入社してから満足な結果を得られること』、すなわち求職者は活躍し、企業側はそれにより組織や事業が成長することです。そのためには、選考を通してお互いが表面上の良い関係だけでなく、もっと深く理解しあうことが大切です。
だから我々の新卒採用活動においても、さすがに事業に関わる社外秘の機密情報は別ですが、それ以外の自分たちのことはオープンに話し、学生の皆様にも我々に対する本音の想いを打ち明けて欲しいので、そのつもりで話を聞いてください」
呉羽は鵜坂の話を聞き入っていたが、ということはこの後、キャリアソウルの呉羽に対する印象や評価が二人から伝えられるのだろうか。それも忌憚のない内容で。少し緊張が走る。
そして、石動が話し出す。
「さて、この選考を通して我々が抱いた呉羽さんへの印象をお伝えします。あなたは端的に言えば、『中途半端な人』ですね」
(つづく)