第8話 信念
文字数 1,815文字
速星の自己紹介に、呉羽を含めた他の学生は目線を彼女に向ける。ピンと伸びた背筋に、緊張の素振りも見えない表情。石動や五福を見つめる鋭いまなざし。速星から一番離れたところに座っている呉羽にも、彼女の圧のようなものが感じられた。ナンバーワン?え?面接の自己紹介で、なんて決意表明をするのか。これ、どんな面接になるのか・・・と、当事者でもないのに呉羽は冷や汗をかいていた。
「ええ、ぜひ目指してみて下さい。当社であれば達成は可能です。その気持ちを忘れないで」
石動はさらりと答えた。彼も『世界を変える』と熱い想いを抱いている人物だ。そんな彼だからこそ、ナンバーワンになるという大志を抱く速星を違和感なく受け入れられるのか。なんだか自分はちっぽけな存在だなと、呉羽は二人のやり取りを見て感じていた。
その後は他の学生と同じような質疑応答が続き、速星は理路整然と回答していった。呉羽が横で聞いていても、意思のこもった、はっきり伝わる回答だった。
「では、速星さんにも伺います。他人に信頼されるために最も大切なことはなんでしょう」
「自信です。お客様である企業、そして仕事を探している方々が、それぞれの想いを支えてくれると感じさせるコンサルタントには、経験、知識、そして強靭な精神力に裏打ちされた、己の自信が不可欠だと考えております」
質問に間髪入れずに答える速星。確固たる信念がひしひしと伝わってくる。
「わかりました。私の質問は以上です」
「私から少しよろしいですか。速星さん、先ほどから質問の受け答えを見させて頂きましたが、私たちの仕事をやっていけるという、まさにあなたが言う『自信』たっぷりのご様子です。そこで、実際はそうでないならそう答えてもらって問題ないのですが、その自信はどこからきているのでしょう」
他の学生の面接とは違って、石動の質問の後に五福が切り出した。相変わらず微笑を浮かべながら話しかける五福。だが、これまでより少しだけ眼差しが鋭くなっているように思えた。
「・・・私は幼いころから、この仕事をしているコンサルタントが周りに沢山いました。その方々の動き方や考え方を目の当たりにしています。そして憧れでもありました。自分も同じ仕事をしたいと思って、これまでコンサルタントの仕事で必要な知識を学んできました。まだまだ人として未熟だとは自覚していますが、実際コンサルタントになっても学んで実践し続ける姿勢は身に着けられたと考えています。普段は意識していませんが、自信があるように見えるのでしたら・・・私がそういった姿勢を保っているからだと思います」
「わかりました。私の質問は以上です。」
速星の回答を終えると、石動は先ほどよりも微笑んだ表情を見せた。
その後は各学生から面接官二人への質問がいくつかあったのち、最初のグループの面接が終了した。直ちに学生たちは退室し、そのまま帰路に就く。その途中、呉羽はエレベーターのドア前で待っていると、通路の影から彼女が歩いてきた。改めて見ると長身というわけではないが、すらりとしたスタイルの良さが目を引く。そして今、呉羽が傍にいて彼女の泰然自若とした様はより一層引き立って見えていた。
下りのエレベーターが到着し、呉羽と速星は一緒に乗り込む。一緒の面接のグループにいて、無言でいるのは落ち着かないので、呉羽は速星に話しかけようとしてねぎらいの言葉を口に出す。
「あの・・・お疲れ様。面接、受かるといいね。・・・速星さんだっけ、すごいね、面接であれだけ堂々と話せるのって」
「・・・ありがとう」
速星は目線を向けずにさらっと謝意を伝え、また無言になる。呉羽は気まずい空気を覚えて、身体が少し固まる。
エレベーターが一階に到着し、先に呉羽がドアから出て少し歩いた瞬間、速星は後ろから話しかける。
「あなたは受かるわ。あなたの言う一生懸命さ、それは他人の信頼を得るために、そして転職コンサルタントの仕事でとても大事だと私も思うから。面接官もきっと納得してるわ。おめでとう」
そう言って速星は呉羽の横を歩き去り、ビルの通用口から出ていった。少し呆気にとられたが、彼女は以前から転職コンサルタントの仕事が身近にある環境で育ってきたらしい。そうなら、彼女の言葉も真実味があるのかもしれない。呉羽は前向きに考えようと、気を取り直してビルを出ていった。
3日後。呉羽のメールアドレスに、キャリアソウルから面接通過の連絡が届いていた。
(つづく)
「ええ、ぜひ目指してみて下さい。当社であれば達成は可能です。その気持ちを忘れないで」
石動はさらりと答えた。彼も『世界を変える』と熱い想いを抱いている人物だ。そんな彼だからこそ、ナンバーワンになるという大志を抱く速星を違和感なく受け入れられるのか。なんだか自分はちっぽけな存在だなと、呉羽は二人のやり取りを見て感じていた。
その後は他の学生と同じような質疑応答が続き、速星は理路整然と回答していった。呉羽が横で聞いていても、意思のこもった、はっきり伝わる回答だった。
「では、速星さんにも伺います。他人に信頼されるために最も大切なことはなんでしょう」
「自信です。お客様である企業、そして仕事を探している方々が、それぞれの想いを支えてくれると感じさせるコンサルタントには、経験、知識、そして強靭な精神力に裏打ちされた、己の自信が不可欠だと考えております」
質問に間髪入れずに答える速星。確固たる信念がひしひしと伝わってくる。
「わかりました。私の質問は以上です」
「私から少しよろしいですか。速星さん、先ほどから質問の受け答えを見させて頂きましたが、私たちの仕事をやっていけるという、まさにあなたが言う『自信』たっぷりのご様子です。そこで、実際はそうでないならそう答えてもらって問題ないのですが、その自信はどこからきているのでしょう」
他の学生の面接とは違って、石動の質問の後に五福が切り出した。相変わらず微笑を浮かべながら話しかける五福。だが、これまでより少しだけ眼差しが鋭くなっているように思えた。
「・・・私は幼いころから、この仕事をしているコンサルタントが周りに沢山いました。その方々の動き方や考え方を目の当たりにしています。そして憧れでもありました。自分も同じ仕事をしたいと思って、これまでコンサルタントの仕事で必要な知識を学んできました。まだまだ人として未熟だとは自覚していますが、実際コンサルタントになっても学んで実践し続ける姿勢は身に着けられたと考えています。普段は意識していませんが、自信があるように見えるのでしたら・・・私がそういった姿勢を保っているからだと思います」
「わかりました。私の質問は以上です。」
速星の回答を終えると、石動は先ほどよりも微笑んだ表情を見せた。
その後は各学生から面接官二人への質問がいくつかあったのち、最初のグループの面接が終了した。直ちに学生たちは退室し、そのまま帰路に就く。その途中、呉羽はエレベーターのドア前で待っていると、通路の影から彼女が歩いてきた。改めて見ると長身というわけではないが、すらりとしたスタイルの良さが目を引く。そして今、呉羽が傍にいて彼女の泰然自若とした様はより一層引き立って見えていた。
下りのエレベーターが到着し、呉羽と速星は一緒に乗り込む。一緒の面接のグループにいて、無言でいるのは落ち着かないので、呉羽は速星に話しかけようとしてねぎらいの言葉を口に出す。
「あの・・・お疲れ様。面接、受かるといいね。・・・速星さんだっけ、すごいね、面接であれだけ堂々と話せるのって」
「・・・ありがとう」
速星は目線を向けずにさらっと謝意を伝え、また無言になる。呉羽は気まずい空気を覚えて、身体が少し固まる。
エレベーターが一階に到着し、先に呉羽がドアから出て少し歩いた瞬間、速星は後ろから話しかける。
「あなたは受かるわ。あなたの言う一生懸命さ、それは他人の信頼を得るために、そして転職コンサルタントの仕事でとても大事だと私も思うから。面接官もきっと納得してるわ。おめでとう」
そう言って速星は呉羽の横を歩き去り、ビルの通用口から出ていった。少し呆気にとられたが、彼女は以前から転職コンサルタントの仕事が身近にある環境で育ってきたらしい。そうなら、彼女の言葉も真実味があるのかもしれない。呉羽は前向きに考えようと、気を取り直してビルを出ていった。
3日後。呉羽のメールアドレスに、キャリアソウルから面接通過の連絡が届いていた。
(つづく)