第5話 やり切れる人間
文字数 1,362文字
「先ほどは御社のプレゼンを伺わせて頂きありがとうございました。あの、いくつかお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか」
「どうぞ」
石動は温和な表情で答えた。
「先ほどのプレゼンでは、石動様から会社の理念や、『皆様の仕事を通じて社会を変えたい』といった想いは熱くお伺いできました・・・のですが、もう少し御社のビジネスモデルを教えて頂けないでしょうか。例えば、どうやって売上を立てているのか、とか」
「あはは。肝心なところをあまり話していませんでしたね。まあ、選考が進む中で詳しくお話ししたいとは思っていましたが」
石動は苦笑し、続けて答える。
「では、弊社の売上の立て方なのですが、弊社は求職者、すなわち転職や再就職を希望する方々を様々な企業様に紹介し、最後に採用まで至った企業様から、紹介手数料という形でお金を頂いています。これが当社の売上になります。」
そして、キャリアソウルは原則求職者からはお金を頂いていないこと、紹介手数料は採用したい求職者の希少性やスキルレベルなどにより異なるが、採用する求職者に提示した年収の30%前後になることなどが説明された。呉羽は頭の中で、紹介手数料はおそらく100万円前後から、300万円を超える場合もあるだろうと推察した。これまでバスケ部の活動に励み、あまりアルバイトもしてこなかった呉羽にとっては、一回の取引で得られる金額としては相当大きなものに見えた。
「ありがとうございます。あの、先ほど石動様が私たちに語られた内容なのですが・・・なんだか壮大な話に聞こえました。世界を変えるとか、社会を変えるとか、こういった会社説明会の場ではあまり聞かれないフレーズでした。なんだか斬新で、ちょっと惹かれるものがあります」
呉羽は率直な想いを吐露する。
「そう言ってくれると、とても嬉しいですね。ぜひ一度、当社の選考にエントリーしてみて下さい。正直、大変なことも多いですが、転職という人生の岐路に立つ方々や、歴史の転換点を迎える企業様の役に立てる、とても尊い仕事ですよ。絶えず求職者や顧客企業の想いや悩みに向き合うことを『やり切れる』人なら、活躍できると思いますよ」
「やり切れる・・・」
2週間後、キャリアソウル東京本社に呉羽はいた。先日の合同企業説明会から間もなく、同社の新卒採用ページからエントリーを済ませると。すぐに1次選考会に来てほしいとの返信メールをもらっていた。メールの内容によれば、1次選考会では会社概要や手がけているサービスの説明が改めて行われたのち、グループ面接を行うとのことだった。
定刻の10分前ほどでよいかと思い、そのタイミングで選考会場となっている同社の会議室に入った。十数名の学生がすでに来ており、多くの学生は会場の中央部から後方にかけて着席している。キャリアソウルの方が話すであろう壇上の前に座っているのは、1人だけだった。呉羽は同じく就職活動をしている大学の親友から、会社説明会ではできるだけ会場の前方に座って話を聞くだけで、後の選考に繋がるアピールになると聞いていた。そのことも意識したが、あの会社説明会で聞いていた石動の熱い語りを、なるべく近くで聞いていたかった。
呉羽は最前列の椅子に着席した。横にいたのは、ショートヘアでやや小柄、そしてクールな雰囲気のある女性だった。
(つづく)
「どうぞ」
石動は温和な表情で答えた。
「先ほどのプレゼンでは、石動様から会社の理念や、『皆様の仕事を通じて社会を変えたい』といった想いは熱くお伺いできました・・・のですが、もう少し御社のビジネスモデルを教えて頂けないでしょうか。例えば、どうやって売上を立てているのか、とか」
「あはは。肝心なところをあまり話していませんでしたね。まあ、選考が進む中で詳しくお話ししたいとは思っていましたが」
石動は苦笑し、続けて答える。
「では、弊社の売上の立て方なのですが、弊社は求職者、すなわち転職や再就職を希望する方々を様々な企業様に紹介し、最後に採用まで至った企業様から、紹介手数料という形でお金を頂いています。これが当社の売上になります。」
そして、キャリアソウルは原則求職者からはお金を頂いていないこと、紹介手数料は採用したい求職者の希少性やスキルレベルなどにより異なるが、採用する求職者に提示した年収の30%前後になることなどが説明された。呉羽は頭の中で、紹介手数料はおそらく100万円前後から、300万円を超える場合もあるだろうと推察した。これまでバスケ部の活動に励み、あまりアルバイトもしてこなかった呉羽にとっては、一回の取引で得られる金額としては相当大きなものに見えた。
「ありがとうございます。あの、先ほど石動様が私たちに語られた内容なのですが・・・なんだか壮大な話に聞こえました。世界を変えるとか、社会を変えるとか、こういった会社説明会の場ではあまり聞かれないフレーズでした。なんだか斬新で、ちょっと惹かれるものがあります」
呉羽は率直な想いを吐露する。
「そう言ってくれると、とても嬉しいですね。ぜひ一度、当社の選考にエントリーしてみて下さい。正直、大変なことも多いですが、転職という人生の岐路に立つ方々や、歴史の転換点を迎える企業様の役に立てる、とても尊い仕事ですよ。絶えず求職者や顧客企業の想いや悩みに向き合うことを『やり切れる』人なら、活躍できると思いますよ」
「やり切れる・・・」
2週間後、キャリアソウル東京本社に呉羽はいた。先日の合同企業説明会から間もなく、同社の新卒採用ページからエントリーを済ませると。すぐに1次選考会に来てほしいとの返信メールをもらっていた。メールの内容によれば、1次選考会では会社概要や手がけているサービスの説明が改めて行われたのち、グループ面接を行うとのことだった。
定刻の10分前ほどでよいかと思い、そのタイミングで選考会場となっている同社の会議室に入った。十数名の学生がすでに来ており、多くの学生は会場の中央部から後方にかけて着席している。キャリアソウルの方が話すであろう壇上の前に座っているのは、1人だけだった。呉羽は同じく就職活動をしている大学の親友から、会社説明会ではできるだけ会場の前方に座って話を聞くだけで、後の選考に繋がるアピールになると聞いていた。そのことも意識したが、あの会社説明会で聞いていた石動の熱い語りを、なるべく近くで聞いていたかった。
呉羽は最前列の椅子に着席した。横にいたのは、ショートヘアでやや小柄、そしてクールな雰囲気のある女性だった。
(つづく)