第17話 生産技術
文字数 2,003文字
「この度は貴重なお時間を頂きありがとうございます。本日は、先日のお電話で伺いました貴社の採用について是非お伺いできればと思いますが、まず初めてお伺いしましたので、当社の紹介を差し上げたいと思います。こちらのパンフレットをご覧ください。当社は・・・」
呉羽は一通りキャリアソウルの会社説明を小杉に行った。この説明がしっかりできるよう、昨日の仕事の帰り際に先輩社員とロープレを何度も行っていた。備えあれば憂いなし。呉羽は説明を終えた後、一通りスムーズに説明はできたかなと心の中で呟いた。
「それで、是非貴社が中途採用をお考えの部門がございましたら、お求めの人材を紹介する機会を頂きたいのですが、いかがでしょうか」
「ふむう。まあ、今ちょうど考えているところはあるんだけどねえ」
「どちらの部署でしょう」
「生産技術の部門なんだけどねえ」
「セイサンギジュツですか?」
呉羽にとっては馴染みのない言葉を耳にする。ここで、「生産技術」に理解が深いとわかる応対ができるとカッコいいかもしれないが、正直よくわからない。なので、キャリアソウルが大事にする「謙虚であれ」を頭に浮かべ、小杉に尋ねる。
「申し訳ございませんが、生産技術という仕事にまだ詳しくなく、かといって無知のまま候補者の紹介を進めるわけにもいきません。大変恐縮なのですが、生産技術というお仕事の内容をお聞かせ願えますでしょうか。」
「・・・あんた、新人さんかね」
「はい」
「そんな気はしていたがね。電話での声も青っぽい感じがしたし。まあ、若さに免じて教えてやろう。私も技術屋ではないから、本当に深い専門的なところまでは分からんけどね」
「すいません」
「それでね、生産技術っていうのは分かりやすく言うと、モノを作るために何が必要かを考える仕事だ。ある製品を新しく作るとすると、どんな機械が必要で、どういう工程で作るべきか、あるいはその製品をどれだけのコストで、何人の従業員で、どれくらいの時間で作れるかといった、いろんな設定を決める仕事になるんや」
「なんというか、映画の総合プロデューサーみたいなものでしょうか」
「まあ、似とるかもしれんけどね。新しい製品だけでなく、既に作っている既存の製品についても、より早く、多く、安く作れるための改善方法を考えるのも仕事だよ」
「そうすると、他の様々な仕事をする社員と関わることが多そうですね」
「そやから、作りたい製品のベストな製造方法を考えるための企画力、それが現実的に可能かを検討するための分析力、そして何より、よい方法を考えるうえでお客さんや社員の要望を把握し、自分の考えを彼らに伝えて理解してもらうためのコミュニケーションの力が必要になる」
「そう聞くと、なかなか難しい仕事にも思えます」
「まあね。だけども、うちのモノづくりを支える大事な仕事の一つだから、しんどいこともあるがやりがいも多いと、今の生産技術の担当は言うけどね」
小杉は穏やかな笑みを浮かべて話す。呉羽はこの会社のモノづくりを支える仕事ができる人を探すことが、自分の仕事だと強く思う。初めて営業ができる機会を頂いただけでなく、分からない仕事の内容を丁寧に教えてくれる小杉に喜んでもらいたいという気持ちが呉羽に湧きあがった。
「今回、その生産技術の部署で採用をお考えなのはどういう理由からでしょうか」
「うん、長年この部門で仕事してくれたベテランの社員が今度退職することになってねえ、地元が東北のほうなんだけど、そこにいるお母さまの体調が悪くなって看病が必要になったそうだ。お父様も介護が必要なほど高齢だそうだから、本人も実家の近くに引っ越して親の面倒を見たいという気持ちが強くてねえ。ずっとうちで働いてくれていたから、すごく残念なんだけど、本人の意思が固いから仕方ないよねえ。」
「その方はいつまで御社で勤められるのですか」
「なんとか他のメンバーへの引継ぎの時間は作らせてね、再来月の末まで在籍してもらうことになったよ。それまでに、なんとか新しく生産技術のメンバーを迎え入れたいと思うけどねえ」
生産技術のメンバーの業務負荷を早く和らげるためにも、できればその人が退職するまでに採用する人が見つかると望ましいだろう。候補者を探してから、選考を実施する期間も考えると、すぐに候補者を探したい。呉羽はそう思い、小杉に懇願する。
「私としては是非、当社の転職支援サービスに登録されている方々の中から、貴社の生産技術のメンバーとして相応しい人材を紹介させてください。間もなく退職される方の後任とのことで、ご期待に応えられるよう早々に候補者となる方を見つけて、紹介したいと思います。その機会を頂きますよう、お願いいたします」
「その前に、人材の紹介に関する契約ごとがあるんじゃないのかな」
「はい。今からご説明いたします」
呉羽は小杉に、人材紹介サービスのご利用に関する申込書を差し出した。
(つづく)
呉羽は一通りキャリアソウルの会社説明を小杉に行った。この説明がしっかりできるよう、昨日の仕事の帰り際に先輩社員とロープレを何度も行っていた。備えあれば憂いなし。呉羽は説明を終えた後、一通りスムーズに説明はできたかなと心の中で呟いた。
「それで、是非貴社が中途採用をお考えの部門がございましたら、お求めの人材を紹介する機会を頂きたいのですが、いかがでしょうか」
「ふむう。まあ、今ちょうど考えているところはあるんだけどねえ」
「どちらの部署でしょう」
「生産技術の部門なんだけどねえ」
「セイサンギジュツですか?」
呉羽にとっては馴染みのない言葉を耳にする。ここで、「生産技術」に理解が深いとわかる応対ができるとカッコいいかもしれないが、正直よくわからない。なので、キャリアソウルが大事にする「謙虚であれ」を頭に浮かべ、小杉に尋ねる。
「申し訳ございませんが、生産技術という仕事にまだ詳しくなく、かといって無知のまま候補者の紹介を進めるわけにもいきません。大変恐縮なのですが、生産技術というお仕事の内容をお聞かせ願えますでしょうか。」
「・・・あんた、新人さんかね」
「はい」
「そんな気はしていたがね。電話での声も青っぽい感じがしたし。まあ、若さに免じて教えてやろう。私も技術屋ではないから、本当に深い専門的なところまでは分からんけどね」
「すいません」
「それでね、生産技術っていうのは分かりやすく言うと、モノを作るために何が必要かを考える仕事だ。ある製品を新しく作るとすると、どんな機械が必要で、どういう工程で作るべきか、あるいはその製品をどれだけのコストで、何人の従業員で、どれくらいの時間で作れるかといった、いろんな設定を決める仕事になるんや」
「なんというか、映画の総合プロデューサーみたいなものでしょうか」
「まあ、似とるかもしれんけどね。新しい製品だけでなく、既に作っている既存の製品についても、より早く、多く、安く作れるための改善方法を考えるのも仕事だよ」
「そうすると、他の様々な仕事をする社員と関わることが多そうですね」
「そやから、作りたい製品のベストな製造方法を考えるための企画力、それが現実的に可能かを検討するための分析力、そして何より、よい方法を考えるうえでお客さんや社員の要望を把握し、自分の考えを彼らに伝えて理解してもらうためのコミュニケーションの力が必要になる」
「そう聞くと、なかなか難しい仕事にも思えます」
「まあね。だけども、うちのモノづくりを支える大事な仕事の一つだから、しんどいこともあるがやりがいも多いと、今の生産技術の担当は言うけどね」
小杉は穏やかな笑みを浮かべて話す。呉羽はこの会社のモノづくりを支える仕事ができる人を探すことが、自分の仕事だと強く思う。初めて営業ができる機会を頂いただけでなく、分からない仕事の内容を丁寧に教えてくれる小杉に喜んでもらいたいという気持ちが呉羽に湧きあがった。
「今回、その生産技術の部署で採用をお考えなのはどういう理由からでしょうか」
「うん、長年この部門で仕事してくれたベテランの社員が今度退職することになってねえ、地元が東北のほうなんだけど、そこにいるお母さまの体調が悪くなって看病が必要になったそうだ。お父様も介護が必要なほど高齢だそうだから、本人も実家の近くに引っ越して親の面倒を見たいという気持ちが強くてねえ。ずっとうちで働いてくれていたから、すごく残念なんだけど、本人の意思が固いから仕方ないよねえ。」
「その方はいつまで御社で勤められるのですか」
「なんとか他のメンバーへの引継ぎの時間は作らせてね、再来月の末まで在籍してもらうことになったよ。それまでに、なんとか新しく生産技術のメンバーを迎え入れたいと思うけどねえ」
生産技術のメンバーの業務負荷を早く和らげるためにも、できればその人が退職するまでに採用する人が見つかると望ましいだろう。候補者を探してから、選考を実施する期間も考えると、すぐに候補者を探したい。呉羽はそう思い、小杉に懇願する。
「私としては是非、当社の転職支援サービスに登録されている方々の中から、貴社の生産技術のメンバーとして相応しい人材を紹介させてください。間もなく退職される方の後任とのことで、ご期待に応えられるよう早々に候補者となる方を見つけて、紹介したいと思います。その機会を頂きますよう、お願いいたします」
「その前に、人材の紹介に関する契約ごとがあるんじゃないのかな」
「はい。今からご説明いたします」
呉羽は小杉に、人材紹介サービスのご利用に関する申込書を差し出した。
(つづく)