第21話 返事
文字数 1,767文字
呉羽が架けた電話は、いつもより仕事を早く終えたらしい上市に繋がり、そのまま瞬光工業の求人の内容を紹介する。小矢部から聞いた、瞬光工業のものづくりが上市の経験が活かせそうであることも力説した。
上市からは、会社の詳しい住所やどんな製品を作っているかといった質問があり、呉羽は自分がわかる範囲で答える。上市も初めて聞いた名前の会社らしく、電話で説明を受けただけでは会社や求人内容の全体像を掴めないとのことで、まずはメールで求人票を送って欲しいとの希望を出してきた。
呉羽は了承し、電話を切って小矢部の席に駆け寄る。
「小矢部さん、ただいま上市様とお話しできました。家に帰ってから求人票を見て、応募を検討してみたいとのことでした。確かに電話では声色も明るく、紳士的な感じのある印象でした」
「そうだろう。実際お会いすると、もっとそう感じるよ。レスポンスも早い方だから、おそらく明日には応募するかどうかの返事を頂けるんじゃないかな」
「瞬光工業を是非検討してほしいことは、しっかりとお伝えしたつもりです。応募の意思を頂けることを願っています」
翌日。呉羽がパソコンを立ち上げると、上市から瞬光工業の求人に応募したいとのメールが入っていた。会社のホームページも調べて、長い歴史があることや、堅実な経営をしていそうなことに興味を持ったとのことだった。
さっそく、瞬光工業の小杉に電話を架け、推薦できる候補者が見つかったことを伝える。
「・・・そうですか。お話を聞いた限りでですと、よいご経歴の方のようですな。一度メールで応募書類を送ってくれませんか」
「早速送ります。是非、ご検討をお願いします」
呉羽は電話を切った後、以前キャリアソウルが原本を預かり、電子ファイルで保管している上市の履歴書と職務経歴書を小杉宛のメールに添付し、送信ボタンを押す。このまま良い形で選考が進みますように、と念じながら。
その日、第一営業部の新卒三人組の帰りのタイミングが同じくらいだったため、彼らは駅まで一緒に帰ることとなった。
「呉羽くん良かったね、求人貰えて。しかも、いい感じの候補者も見つけられたんでしょー。いいなあ。これ、初成約にしようよ」
茶目っ気たっぷりの岩瀬が、呉羽に煽り気味に話しかける。
「まだ書類選考の結果も来ていないから。電話で人事の方は是非見たいと言ってたから、返事が気になるよ。そう言えば、岩瀬のアポイントはどうだった?」
「うぅ、アポが取れた会社、行ってみたけどダメだった。キャリア採用は今もしているみたいだけど、もう選考状況が佳境に入っているのと、別の転職エージェントに任せているから、だって。アポイントに付き合ってくれたのは、『どうしても選考がうまく行かなった場合に、キャリアソウルのことを頭の片隅に入れておこうと思ったため』だとか。上手くいかなかったら、声をかけるかもしれないんでー、ってちょっと軽い感じで言われて、商談が終わっちゃった。ああ、無念なり」
「でも、今後求人がもらえる可能性が無くなったわけではないじゃないか。縁がなさそうだけで、時間をおいてフォローしてみたら?」
「まあ、そうする」
しょげ気味の岩瀬を励まし、代わって相変わらず泰然自若な様子で歩く速星に目を向ける。
「速星はこの間アポを取っていた会社、求人を貰えたって聞いたけど、その後はどう?」
「いい候補者を見つけられたわ。先方にご紹介したら、無事面接して頂けることになった。今日日程調整をして、来週の月曜日に面接の予定よ」
「順調そうだな」
「私はいけると思うけど、ふたを開けてみないとわからない」
そのように言いつつも、いける、というその口ぶりには彼女の自信が見て取れた。まだ面接も終わっていないのに。ここで呉羽は気になっていたことを尋ねる。
「速星って、入社する前から感じていたことだけど・・・どうしてそんなに自信持てるの?」
「私も!それ聞いてみたかった」
岩瀬が乗っかって聞いてきた。彼女も興味があったようだ。
「・・・自信があるなんて思ったことないわ。ただ、もしそう見えるなら、自分が関わった物事の結末を読むためには、とにかく準備をして、ひたすら情報を集めることだけは必死にしているわ。そうすれば迷わない」
速星の答えを聞き、呉羽は胸の奥がぞわぞわする感じを覚えた。少し羨ましい感情とともに。
(つづく)
上市からは、会社の詳しい住所やどんな製品を作っているかといった質問があり、呉羽は自分がわかる範囲で答える。上市も初めて聞いた名前の会社らしく、電話で説明を受けただけでは会社や求人内容の全体像を掴めないとのことで、まずはメールで求人票を送って欲しいとの希望を出してきた。
呉羽は了承し、電話を切って小矢部の席に駆け寄る。
「小矢部さん、ただいま上市様とお話しできました。家に帰ってから求人票を見て、応募を検討してみたいとのことでした。確かに電話では声色も明るく、紳士的な感じのある印象でした」
「そうだろう。実際お会いすると、もっとそう感じるよ。レスポンスも早い方だから、おそらく明日には応募するかどうかの返事を頂けるんじゃないかな」
「瞬光工業を是非検討してほしいことは、しっかりとお伝えしたつもりです。応募の意思を頂けることを願っています」
翌日。呉羽がパソコンを立ち上げると、上市から瞬光工業の求人に応募したいとのメールが入っていた。会社のホームページも調べて、長い歴史があることや、堅実な経営をしていそうなことに興味を持ったとのことだった。
さっそく、瞬光工業の小杉に電話を架け、推薦できる候補者が見つかったことを伝える。
「・・・そうですか。お話を聞いた限りでですと、よいご経歴の方のようですな。一度メールで応募書類を送ってくれませんか」
「早速送ります。是非、ご検討をお願いします」
呉羽は電話を切った後、以前キャリアソウルが原本を預かり、電子ファイルで保管している上市の履歴書と職務経歴書を小杉宛のメールに添付し、送信ボタンを押す。このまま良い形で選考が進みますように、と念じながら。
その日、第一営業部の新卒三人組の帰りのタイミングが同じくらいだったため、彼らは駅まで一緒に帰ることとなった。
「呉羽くん良かったね、求人貰えて。しかも、いい感じの候補者も見つけられたんでしょー。いいなあ。これ、初成約にしようよ」
茶目っ気たっぷりの岩瀬が、呉羽に煽り気味に話しかける。
「まだ書類選考の結果も来ていないから。電話で人事の方は是非見たいと言ってたから、返事が気になるよ。そう言えば、岩瀬のアポイントはどうだった?」
「うぅ、アポが取れた会社、行ってみたけどダメだった。キャリア採用は今もしているみたいだけど、もう選考状況が佳境に入っているのと、別の転職エージェントに任せているから、だって。アポイントに付き合ってくれたのは、『どうしても選考がうまく行かなった場合に、キャリアソウルのことを頭の片隅に入れておこうと思ったため』だとか。上手くいかなかったら、声をかけるかもしれないんでー、ってちょっと軽い感じで言われて、商談が終わっちゃった。ああ、無念なり」
「でも、今後求人がもらえる可能性が無くなったわけではないじゃないか。縁がなさそうだけで、時間をおいてフォローしてみたら?」
「まあ、そうする」
しょげ気味の岩瀬を励まし、代わって相変わらず泰然自若な様子で歩く速星に目を向ける。
「速星はこの間アポを取っていた会社、求人を貰えたって聞いたけど、その後はどう?」
「いい候補者を見つけられたわ。先方にご紹介したら、無事面接して頂けることになった。今日日程調整をして、来週の月曜日に面接の予定よ」
「順調そうだな」
「私はいけると思うけど、ふたを開けてみないとわからない」
そのように言いつつも、いける、というその口ぶりには彼女の自信が見て取れた。まだ面接も終わっていないのに。ここで呉羽は気になっていたことを尋ねる。
「速星って、入社する前から感じていたことだけど・・・どうしてそんなに自信持てるの?」
「私も!それ聞いてみたかった」
岩瀬が乗っかって聞いてきた。彼女も興味があったようだ。
「・・・自信があるなんて思ったことないわ。ただ、もしそう見えるなら、自分が関わった物事の結末を読むためには、とにかく準備をして、ひたすら情報を集めることだけは必死にしているわ。そうすれば迷わない」
速星の答えを聞き、呉羽は胸の奥がぞわぞわする感じを覚えた。少し羨ましい感情とともに。
(つづく)