第22話 一次選考
文字数 2,008文字
翌日、呉羽の元に瞬光工業の小杉からメールが届いていた。上市の書類選考結果は、晴れて合格との内容だった。
呉羽は直ちに瞬光工業の小杉に連絡し、今後の選考のプロセスを確認する。
「次の面接以降、どのような選考の流れになりますでしょうか」
「まず、今度の面接は一次面接になりまして、当社の製造部長の福光が面接官をさせて頂きます。私も同席します。いつもですと、大体1時間程度かかるでしょうかね」
「適性試験などは行いますか」
「当社はそういうのはいたしません。面接だけですが、福光から上市様の技術者としての知識や経験を詳しく伺います。お人柄については私と福光で確認しようと思います」
「かしこまりました。ちなみに一次面接の結果はいつ頃お知らせ頂けますか」
「2~3日ほど頂ければお知らせできます。結果が合格でしたら、次は当社の社長が二次面接を行います。その結果で上市様の最終的な合否が決まりますので、ご承知おきください」
「かしこまりました。その旨、私から上市様にお伝えいたします」
電話を終えると、呉羽は石動にこの案件の進捗を報告する。
「その福光様という方の肩書が製造部長ということであれば、瞬光工業くらいの企業規模であれば、きっと生産技術の部署を含む、工場部門全体を統括する責任者だろう。そんな福光様が納得できる技術レベルを上市様がアピールできるかどうかが、今回の面接の鍵だな」
「お話はしっかりできる方だと思うので、準備さえしっかりできればご自身の知識や経験を問題なく伝えきってくれると思います」
「そうはいっても、いざ面接となると緊張はされるだろうから、それが過剰にならないようケアをするのも我々の一つの仕事だ。呉羽くん、君が訪問して感じた瞬光工業の雰囲気や小杉様のお人柄など、知っている情報を事前にしっかり伝えてあげなさい。リアルな情報を少し持てるだけでも、安心に繋がるものだ」
「かしこまりました」
呉羽はその日の晩、上市に電話で一次面接の詳細について話した。面接官が製造現場の責任者であることを知らせると、上市は興味が湧いた様子で、面接ではあるが自らの分野と近しいものづくりをしている会社の、製造の責任者と話ができるのは嬉しいとのことだった。このあたりは、技術者らしい感覚なのかもしれないと呉羽は思った。上市自身も、インターネットで面接の想定問答集などを調べて、こういう質問にはこう答えるという考えをまとめているとのことだった。なんでも今回の転職活動で面接に参加するのは初めてらしく、準備をできるだけ万端にして挑みたいというので、呉羽から伝えてもらった情報はすごく有難いと謝意を示す。呉羽はとんでもございませんと謙遜したが、内心は喜ばれたことへの嬉しさを噛みしめていた。
翌週、上市の瞬光工業一次面接の日。
面接の終了時刻を過ぎてまもなく、呉羽の携帯電話に上市からの電話が鳴る。事前に面接が終了したら、感想を聞きたいので連絡をくれるように上市にお願いをしていたのだった。
「呉羽さん、先ほど面接が終わりました」
「お疲れさまでした。今日の面接はいかがでしたか」
「そうですね、思ったよりも良い雰囲気で話ができたと思います。先方は呉羽さんから伺っていた通りで、製造部長の福光様と総務部長の小杉様のお二人が面接官としていらっしゃいました」
「お二人からどんな質問がありましたか」
「最初は簡単に自己紹介を求められまして、それが終わると私の職務経歴書を見ながら、持っている経験や知識を詳しく確認する質問が続きました。特に福光様とは、鋳造技術の面白さやむずかしさ、奥の深さについての考えを語り合う場面もあって、面接ではありましたが同じ技術者として共感しあえるところもあって、話が盛り上がりましたね」
「それは何よりです。そのお話を伺う限り、上市様への技術面の評価は高くなるのではないでしょうか」
「あとは小杉様から、今回の転職を思い立った理由や瞬光工業に応募した理由が聞かれました。ここは率直にお伝えし、面接官のお二人の反応を見る限り、理解は頂けたのではないかと思います」
「わかりました。今回の選考が合格の場合は、次回社長様との面接が行われる予定ですが、お気持ちはいかがでしょうか」
「是非次の選考に進みたいと思います。今回の面接で、技術分野も近く愚直なものづくりをしている瞬光工業様により強く惹かれました。今後採用の話になりましたら、前向きに考えたいと思います」
「ありがとうございます。今頂いた上市様のお話は、私からも先方にお伝えしたいと思います」
呉羽は上市からの電話が終えると、直ちに小杉に電話をかける。
「小杉様、お世話になっております。本日は上市様の面接を実施頂きありがとうございました」
「いやいやこちらこそ。さっそくですけど、今日来て頂いた上市様には、是非社長との面接に進んで頂きたいと思います」
その言葉を受けた呉羽は、右手のこぶしを握り締めた。
(つづく)
呉羽は直ちに瞬光工業の小杉に連絡し、今後の選考のプロセスを確認する。
「次の面接以降、どのような選考の流れになりますでしょうか」
「まず、今度の面接は一次面接になりまして、当社の製造部長の福光が面接官をさせて頂きます。私も同席します。いつもですと、大体1時間程度かかるでしょうかね」
「適性試験などは行いますか」
「当社はそういうのはいたしません。面接だけですが、福光から上市様の技術者としての知識や経験を詳しく伺います。お人柄については私と福光で確認しようと思います」
「かしこまりました。ちなみに一次面接の結果はいつ頃お知らせ頂けますか」
「2~3日ほど頂ければお知らせできます。結果が合格でしたら、次は当社の社長が二次面接を行います。その結果で上市様の最終的な合否が決まりますので、ご承知おきください」
「かしこまりました。その旨、私から上市様にお伝えいたします」
電話を終えると、呉羽は石動にこの案件の進捗を報告する。
「その福光様という方の肩書が製造部長ということであれば、瞬光工業くらいの企業規模であれば、きっと生産技術の部署を含む、工場部門全体を統括する責任者だろう。そんな福光様が納得できる技術レベルを上市様がアピールできるかどうかが、今回の面接の鍵だな」
「お話はしっかりできる方だと思うので、準備さえしっかりできればご自身の知識や経験を問題なく伝えきってくれると思います」
「そうはいっても、いざ面接となると緊張はされるだろうから、それが過剰にならないようケアをするのも我々の一つの仕事だ。呉羽くん、君が訪問して感じた瞬光工業の雰囲気や小杉様のお人柄など、知っている情報を事前にしっかり伝えてあげなさい。リアルな情報を少し持てるだけでも、安心に繋がるものだ」
「かしこまりました」
呉羽はその日の晩、上市に電話で一次面接の詳細について話した。面接官が製造現場の責任者であることを知らせると、上市は興味が湧いた様子で、面接ではあるが自らの分野と近しいものづくりをしている会社の、製造の責任者と話ができるのは嬉しいとのことだった。このあたりは、技術者らしい感覚なのかもしれないと呉羽は思った。上市自身も、インターネットで面接の想定問答集などを調べて、こういう質問にはこう答えるという考えをまとめているとのことだった。なんでも今回の転職活動で面接に参加するのは初めてらしく、準備をできるだけ万端にして挑みたいというので、呉羽から伝えてもらった情報はすごく有難いと謝意を示す。呉羽はとんでもございませんと謙遜したが、内心は喜ばれたことへの嬉しさを噛みしめていた。
翌週、上市の瞬光工業一次面接の日。
面接の終了時刻を過ぎてまもなく、呉羽の携帯電話に上市からの電話が鳴る。事前に面接が終了したら、感想を聞きたいので連絡をくれるように上市にお願いをしていたのだった。
「呉羽さん、先ほど面接が終わりました」
「お疲れさまでした。今日の面接はいかがでしたか」
「そうですね、思ったよりも良い雰囲気で話ができたと思います。先方は呉羽さんから伺っていた通りで、製造部長の福光様と総務部長の小杉様のお二人が面接官としていらっしゃいました」
「お二人からどんな質問がありましたか」
「最初は簡単に自己紹介を求められまして、それが終わると私の職務経歴書を見ながら、持っている経験や知識を詳しく確認する質問が続きました。特に福光様とは、鋳造技術の面白さやむずかしさ、奥の深さについての考えを語り合う場面もあって、面接ではありましたが同じ技術者として共感しあえるところもあって、話が盛り上がりましたね」
「それは何よりです。そのお話を伺う限り、上市様への技術面の評価は高くなるのではないでしょうか」
「あとは小杉様から、今回の転職を思い立った理由や瞬光工業に応募した理由が聞かれました。ここは率直にお伝えし、面接官のお二人の反応を見る限り、理解は頂けたのではないかと思います」
「わかりました。今回の選考が合格の場合は、次回社長様との面接が行われる予定ですが、お気持ちはいかがでしょうか」
「是非次の選考に進みたいと思います。今回の面接で、技術分野も近く愚直なものづくりをしている瞬光工業様により強く惹かれました。今後採用の話になりましたら、前向きに考えたいと思います」
「ありがとうございます。今頂いた上市様のお話は、私からも先方にお伝えしたいと思います」
呉羽は上市からの電話が終えると、直ちに小杉に電話をかける。
「小杉様、お世話になっております。本日は上市様の面接を実施頂きありがとうございました」
「いやいやこちらこそ。さっそくですけど、今日来て頂いた上市様には、是非社長との面接に進んで頂きたいと思います」
その言葉を受けた呉羽は、右手のこぶしを握り締めた。
(つづく)