第10話 心をえぐる期待
文字数 1,817文字
『中途半端』という単刀直入な一言が、呉羽の胸に突き刺さる。さらに石動は続ける。
「前回の面接で我々は呉羽さんから、これまで学生生活で取り組んできたことを中心に話を伺いました。呉羽さんは特に、部活動のことは一生懸命話していたかと思います。例えば私は『呉羽さんの最後の大会を、今どう振り返っているか』という質問をしましたが、その時呉羽さんはあと一歩で勝てなかったことが悔しかった、自分が最後のシュートを迷わず打っていれば結果が変わっていたかもしれない、とか仰っていました。無念の想いが大変伝わってきましたよ。
ですが、大切なのは同じ失敗を繰り返さないために、『どうすれば勝てたのか』『なぜあの時迷ってしまったのか』という、問題の深掘りが出来ているかです。
まあ、確かに私もそこまで教えてくださいと、はっきり言わなかったですが」
最後に石動が言った言葉に、呉羽は「そうでしたよね」という言葉が脳裏に浮かんだが、それをかき消すように石動は言葉を続ける。
「ただ、結果から原因を分析する意識が強かったり、習慣化できている人であれば、取り上げた出来事の原因から改善方法まで考え、そのことまで話の内容まで含めてくるのではないかと考えます。呉羽さんが話された内容は、感想の域を出ません。一番力を入れて取り組んだ部活動の話でそうだとすると、他の色々な取り組みでも本気で改善を重ねながら、やりきることができていないのではないかと考えました」
図星を突いてくるような石動の言葉に、呉羽の心臓の鼓動が速くなっていくのを感じる。
「しかし、あなたは部活動の結末に、悔しさと未練も強く抱いている。それが今の就職活動への原動力にもなっている。あなたの人柄の根本的な部分は一生懸命で、人想い。転職エージェントのコンサルタントとして、とても大事なものを持っています。ですから、その未練を当社の仕事でぶつけて、『やり切れる人』になったら、きっと活躍できる。素晴らしいコンサルタントになれる。そういう期待から、呉羽さんを採用しようと考えています」
その後は、社長の鵜坂との間でいくつかの質疑応答が進んだ。内容はほとんどが一次面接で聞かれたことの再確認や、鵜坂がもう少しだけ詳しく聞きたいがための質問だった。この質疑応答はおそらく、石動から聞いていたであろう自分の話に最終チェックをするくらいもので、選考に強く影響しないものだと呉羽は感じていた。
呉羽は質問に答えながら、先ほどの石動の言葉が頭の中で反芻する。『中途半端』。あれほど時間を注ぎ込んだバスケットボールが『やりきることができていない』・・・。
面接はあっという間に最終盤となった。鵜坂は自分がしたい質問がすべてできたようで、納得している表情だ。
「社長も色々と質問ができたようですので。今日はこれにて終了としたいと思います。一両日中には、最終的な選考結果をメールで連絡差し上げますので、ご確認下さい。」
石動がそう言って、二次面接は終了した。全員会議室を出て、石動と鵜坂がエレベーターのところまで呉羽を見送る。呉羽は二人に礼を伝えてから、エレベーターに乗り込んだ。
その夜、呉羽がスマートフォンで頻繁に見ている就職活動用のメールアドレスに、キャリアソウルからメールが届いた。メールタイトルは『2次面接の選考結果について』。彼はおそるおそるメールをタップする。
『呉羽隆二 様
本日は、遠方から再度本社での二次面接に参加頂きありがとうございました。
さて表題の件ですが、この度呉羽様を採用することが決定いたしましたので、ここにご報告いたします。
当社としましては、ぜひ呉羽様にご入社頂き、一緒に『世界を変えていく』一員として活躍頂きたく考えております。
呉羽様のお気持ちについて、またお知らせ頂きたく存じます。
何卒よろしくお願いいたします。
キャリアソウル 石動』
就職活動を始めて、初めての採用内定連絡。結果がどうなるか、二次面接を終えてからずっと気がかりだったので、安堵して肩の力が抜けていった。深く深呼吸をして、布団の上に横たわって目をつむる。
嬉しさは確かにある。だが、呉羽の頭にはまだ面接の石動の言葉が残っていた。それと交互に残像のように浮かんでくる、最後のシュートのシーン。
自分は、中途半端なのか?やりきることができない人間なのか??
・・・変わりたい。そんな自分からは脱却したい。
翌日、正午過ぎにスマホに着信がきた。石動からだった。
(つづく)
「前回の面接で我々は呉羽さんから、これまで学生生活で取り組んできたことを中心に話を伺いました。呉羽さんは特に、部活動のことは一生懸命話していたかと思います。例えば私は『呉羽さんの最後の大会を、今どう振り返っているか』という質問をしましたが、その時呉羽さんはあと一歩で勝てなかったことが悔しかった、自分が最後のシュートを迷わず打っていれば結果が変わっていたかもしれない、とか仰っていました。無念の想いが大変伝わってきましたよ。
ですが、大切なのは同じ失敗を繰り返さないために、『どうすれば勝てたのか』『なぜあの時迷ってしまったのか』という、問題の深掘りが出来ているかです。
まあ、確かに私もそこまで教えてくださいと、はっきり言わなかったですが」
最後に石動が言った言葉に、呉羽は「そうでしたよね」という言葉が脳裏に浮かんだが、それをかき消すように石動は言葉を続ける。
「ただ、結果から原因を分析する意識が強かったり、習慣化できている人であれば、取り上げた出来事の原因から改善方法まで考え、そのことまで話の内容まで含めてくるのではないかと考えます。呉羽さんが話された内容は、感想の域を出ません。一番力を入れて取り組んだ部活動の話でそうだとすると、他の色々な取り組みでも本気で改善を重ねながら、やりきることができていないのではないかと考えました」
図星を突いてくるような石動の言葉に、呉羽の心臓の鼓動が速くなっていくのを感じる。
「しかし、あなたは部活動の結末に、悔しさと未練も強く抱いている。それが今の就職活動への原動力にもなっている。あなたの人柄の根本的な部分は一生懸命で、人想い。転職エージェントのコンサルタントとして、とても大事なものを持っています。ですから、その未練を当社の仕事でぶつけて、『やり切れる人』になったら、きっと活躍できる。素晴らしいコンサルタントになれる。そういう期待から、呉羽さんを採用しようと考えています」
その後は、社長の鵜坂との間でいくつかの質疑応答が進んだ。内容はほとんどが一次面接で聞かれたことの再確認や、鵜坂がもう少しだけ詳しく聞きたいがための質問だった。この質疑応答はおそらく、石動から聞いていたであろう自分の話に最終チェックをするくらいもので、選考に強く影響しないものだと呉羽は感じていた。
呉羽は質問に答えながら、先ほどの石動の言葉が頭の中で反芻する。『中途半端』。あれほど時間を注ぎ込んだバスケットボールが『やりきることができていない』・・・。
面接はあっという間に最終盤となった。鵜坂は自分がしたい質問がすべてできたようで、納得している表情だ。
「社長も色々と質問ができたようですので。今日はこれにて終了としたいと思います。一両日中には、最終的な選考結果をメールで連絡差し上げますので、ご確認下さい。」
石動がそう言って、二次面接は終了した。全員会議室を出て、石動と鵜坂がエレベーターのところまで呉羽を見送る。呉羽は二人に礼を伝えてから、エレベーターに乗り込んだ。
その夜、呉羽がスマートフォンで頻繁に見ている就職活動用のメールアドレスに、キャリアソウルからメールが届いた。メールタイトルは『2次面接の選考結果について』。彼はおそるおそるメールをタップする。
『呉羽隆二 様
本日は、遠方から再度本社での二次面接に参加頂きありがとうございました。
さて表題の件ですが、この度呉羽様を採用することが決定いたしましたので、ここにご報告いたします。
当社としましては、ぜひ呉羽様にご入社頂き、一緒に『世界を変えていく』一員として活躍頂きたく考えております。
呉羽様のお気持ちについて、またお知らせ頂きたく存じます。
何卒よろしくお願いいたします。
キャリアソウル 石動』
就職活動を始めて、初めての採用内定連絡。結果がどうなるか、二次面接を終えてからずっと気がかりだったので、安堵して肩の力が抜けていった。深く深呼吸をして、布団の上に横たわって目をつむる。
嬉しさは確かにある。だが、呉羽の頭にはまだ面接の石動の言葉が残っていた。それと交互に残像のように浮かんでくる、最後のシュートのシーン。
自分は、中途半端なのか?やりきることができない人間なのか??
・・・変わりたい。そんな自分からは脱却したい。
翌日、正午過ぎにスマホに着信がきた。石動からだった。
(つづく)