第13話 持つべきもの
文字数 1,536文字
「驚きましたよー。石動さんがコンサルタントに戻って、一緒の部署で働けるなんて。でもすごい嬉しいです。これからよろしくお願いします」
陽気な口調で岩瀬が言う。呉羽自身は今日に至るまで、合同会社説明会と面接の場面で合計三回石動と会い、加えて入社承諾の連絡含む電話のやり取りも時々していた。だが正直なところ、入社前の学生という身分ゆえ、礼節を意識しながらもやや一線を引いた感覚でやり取りをしていた。入社式を迎えたばかりなのに、岩瀬の石動への話し方を見ると、なんて馴れ馴れしいのかと感じ、若干引け目も感じてしまっていた。
「ああ、よろしく。みんなこれからいよいよ社会人、そして転職コンサルタントのプロになるための第一歩だ。一歩ずつでも、着実に歩んでいってほしい」
3人の目線を一同に集めた石動はこう話した。彼が新入社員としてキャリアソウルに入社したのは15年前になる。当時のキャリアソウルはまだまだ設立間もない会社で、社員数も20名程度。彼を含めた3名だけが、同社初めての新卒採用だった。のちに彼はコンサルタントとして目覚ましい活躍を見せ、若手のコンサルタントの指導を任されるチームリーダーの役割を担うまでに至った。そして3年前に同社で新たに立ち上がった人事部門に異動し、その責任者として新卒社員や中途入社の社員の採用活動や、人事制度の構築に邁進してきた。そしてこの4月、久々にコンサルタントが集まる前線部門にカムバックしてきたのである。
入社式だけで午前中は過ぎ、午後からは同社における社内規則やマナーを教わるオリエンテーション、各部門の管理職たちの挨拶といったセレモニーが行われ、呉羽たち新入社員の入社初日は終了した。
会社からの帰り道。晴れて同じ釜の飯を食うことになった新卒3人組は、最寄りの駅までの帰り道は同じだ。自然な流れで3人は一緒に帰途につく。
「いやー、ついに社会人デビューだね。正直、つい数日前まで学生気分が抜け切れていない感じだったんだけど、今日辞令を受け取って、いよいよ働くんだなって感じがしたね。あと、石動さんの話し方が・・・これまではお客さん的な接し方で丁寧語で話してくれていたけど、今日から先輩、そして上司って感じの話し方に変わって、これでリアルに『会社員になったんだ』って思った。ま、これからしんどいことも大変なこともあるだろうけど、一緒に頑張っていこうね」
岩瀬が両手で握りこぶしを作り、気合の入った表情で言う。
「石動さんは理想が高そうだから、なんか僕たちにも厳しく接してくるのかな。気を引き締めないといけないと思うな」
呉羽は2人にそう話しながら、そんなことは彼女なら百も承知だろうと思って、岩瀬の隣にいる女性に目を向ける。日本一のコンサルタントを目指すという速星玲奈。彼女とは面接で二言三言交わして以来、この帰り道に至るまでまだ会話をしていない。入社当日にそれでは寂しい感じがしたので、ここで呉羽が話しかける。
「速星さん、一緒に面接受けて思ったけど、すごい堂々としていて素直にすごいなと思った。なんかこっちも刺激になるというか、速星さんに引っ張られて気持ちが前に向いていけるようで。これから仕事でいろんな出来事があると思うけど、自分も速星さんを見習って前向きな姿勢を持つようにするから、一緒に頑張ろう」
「そう言ってくれてありがとう。これからよろしく」
「あと、速星さんの日本一になりたいっていう、確固たる決意を持っているところも凄い。自分もそういうのを持てるようになりたいと思うよ」
「まあ、そういうのは人により形は様々だし、持てるタイミングも人次第じゃない?まあ、明日から常に持ち続けるもののほうが、この仕事では大事だと思うけど」
「何それ」
「電話機よ」
(つづく)
陽気な口調で岩瀬が言う。呉羽自身は今日に至るまで、合同会社説明会と面接の場面で合計三回石動と会い、加えて入社承諾の連絡含む電話のやり取りも時々していた。だが正直なところ、入社前の学生という身分ゆえ、礼節を意識しながらもやや一線を引いた感覚でやり取りをしていた。入社式を迎えたばかりなのに、岩瀬の石動への話し方を見ると、なんて馴れ馴れしいのかと感じ、若干引け目も感じてしまっていた。
「ああ、よろしく。みんなこれからいよいよ社会人、そして転職コンサルタントのプロになるための第一歩だ。一歩ずつでも、着実に歩んでいってほしい」
3人の目線を一同に集めた石動はこう話した。彼が新入社員としてキャリアソウルに入社したのは15年前になる。当時のキャリアソウルはまだまだ設立間もない会社で、社員数も20名程度。彼を含めた3名だけが、同社初めての新卒採用だった。のちに彼はコンサルタントとして目覚ましい活躍を見せ、若手のコンサルタントの指導を任されるチームリーダーの役割を担うまでに至った。そして3年前に同社で新たに立ち上がった人事部門に異動し、その責任者として新卒社員や中途入社の社員の採用活動や、人事制度の構築に邁進してきた。そしてこの4月、久々にコンサルタントが集まる前線部門にカムバックしてきたのである。
入社式だけで午前中は過ぎ、午後からは同社における社内規則やマナーを教わるオリエンテーション、各部門の管理職たちの挨拶といったセレモニーが行われ、呉羽たち新入社員の入社初日は終了した。
会社からの帰り道。晴れて同じ釜の飯を食うことになった新卒3人組は、最寄りの駅までの帰り道は同じだ。自然な流れで3人は一緒に帰途につく。
「いやー、ついに社会人デビューだね。正直、つい数日前まで学生気分が抜け切れていない感じだったんだけど、今日辞令を受け取って、いよいよ働くんだなって感じがしたね。あと、石動さんの話し方が・・・これまではお客さん的な接し方で丁寧語で話してくれていたけど、今日から先輩、そして上司って感じの話し方に変わって、これでリアルに『会社員になったんだ』って思った。ま、これからしんどいことも大変なこともあるだろうけど、一緒に頑張っていこうね」
岩瀬が両手で握りこぶしを作り、気合の入った表情で言う。
「石動さんは理想が高そうだから、なんか僕たちにも厳しく接してくるのかな。気を引き締めないといけないと思うな」
呉羽は2人にそう話しながら、そんなことは彼女なら百も承知だろうと思って、岩瀬の隣にいる女性に目を向ける。日本一のコンサルタントを目指すという速星玲奈。彼女とは面接で二言三言交わして以来、この帰り道に至るまでまだ会話をしていない。入社当日にそれでは寂しい感じがしたので、ここで呉羽が話しかける。
「速星さん、一緒に面接受けて思ったけど、すごい堂々としていて素直にすごいなと思った。なんかこっちも刺激になるというか、速星さんに引っ張られて気持ちが前に向いていけるようで。これから仕事でいろんな出来事があると思うけど、自分も速星さんを見習って前向きな姿勢を持つようにするから、一緒に頑張ろう」
「そう言ってくれてありがとう。これからよろしく」
「あと、速星さんの日本一になりたいっていう、確固たる決意を持っているところも凄い。自分もそういうのを持てるようになりたいと思うよ」
「まあ、そういうのは人により形は様々だし、持てるタイミングも人次第じゃない?まあ、明日から常に持ち続けるもののほうが、この仕事では大事だと思うけど」
「何それ」
「電話機よ」
(つづく)