海鳴り 2-2

文字数 1,458文字

 大村マリエは『株)サカモト鉱物コンサルタント』の社員である。当株式会社は天の川銀河にある惑星、衛星、並びに準惑星に探査船を派遣して地質調査をする会社である。大手鉱物掘削会社の子会社として、あちらこちらの星に調査に向かう。
マリエのチームは今回この準惑星NT67ht355-34で地質調査を展開している。

 目ぼしい星を探し当てその星のポテンシャルを空から調べる。(地面があってそこで活動できる星なら取り敢えず可。何故なら星の中にはとんでもなく高温で地面が溶けて燃え盛り、地獄とはさもあらんと思えるような星から、全球凍結、そしてブリザードが荒れ狂う極寒の星や、有り得ないスピードで自転する星、高濃度のガスで出来ている星、ガンマ線バーストを放出する危険極まりない星、秒速数千メートルの暴風が吹き荒れる星、強塩酸や濃硫酸の雨が降る星など、掘削どころか、近寄る事すら出来ない恐ろしい星が沢山あるからだ)。
 めぼしい星の電磁場強度や重力、放射能強度などを探査し、地熱、断層、水脈など地質のあらましをマッピングする。

 次に星全体にいくつかポイントを定め、それぞれの担当社員がそのポイント付近での物理調査や地化学探査を行う。鉱物の有無やその種類、貴重なレアメタルなどの有無を調査し、ある程度の予測が出来たら、次は試験掘削調査隊が派遣され試験掘削が開始される。で、それらのデータを元に経費と利益を見積り、これは開発の利がありと各部署のトップ並びに科学部の上席研究員が判断したなら、取締役会議で最終意思決定がなされる。

 ゴーサインが出ると採掘現場に強大な自走型移動都市が建設される。都市自体が巨大な掘削マシンを装備し、運搬、選鉱、精錬システムなどを兼ね備えた鉱山開発の為の都市である。都市は数年ごとに移動しながら掘削を続ける。そして大量の鉱物を母星に送り続けるのだ。

 マリエはライトシェルの隙間から差し出されたベロ(着地用タラップ)を通って陸地に降り立つ。ベロをライトシェルに収納する。

 頭から幅広のシェードを被る
ざっくりとした繊維の茶色のシェードを被って後ろにジャメルを従えたマリエはまるで砂漠を旅する古のベドウィンの様だ。ジャメルの頭には前後左右大きな目が4つある。全方位監視のビデオカメラとセンサーである。
アキラが凸凹の道を器用にキャタピラを操って付いて来る。

 辺りは茶色一色の風景。空を見上げると夕闇の薄暗さの中にポツンと浮かんでいる母船が見えた。母船の離発着には膨大なエネルギーを必要とする。だから空中にホバリングしたまま、そこから調査隊をライトシェルで送り出す。

「今は昼間よね?」
マリエはアキラに尋ねる。
「そうです」
「後何時間で夜になるの?」
「7時間です」
「じゃあ、それまでに電気探査の機器を設置しますか」
「了解です」
 マリエはジャメルの腹を開けると計測機器を取り出し、それをアキラと共に設置し始めた。


 夜になって真っ暗な地平線の向こうに巨大な月が現れた。月はネトロの光を反射して黄色に輝いていた。マリエとアキラとジャメルはその月を眺める。
「これは、圧巻だわね・・」
マリエは言った。
「準惑星NT67ht355-34の連星NT67ht355-35です」
アキラが答えた。
「向こうにも別チームの調査隊は派遣されているのよね」
「そうです」

「アキラ、探査データはちゃんと母船に送れているかしら」
マリエは言った。アキラはデータ通信の状態を調べる。そして返した。
「ばっちりですわ!」
マリエは笑った。
第6世代AIはユーモアも標準装備である。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み