海鳴り 2-1 

文字数 1,027文字

ライトシェルが盛大な砂埃を巻き上げて僅かな平地に着陸した。
その名の通り貝殻の形をしたこの飛行艇は水陸空全てに対応する。そして自動的に船体の色を周囲の色に同調させてカモフラージュをする。だからこんな岩だらけの場所に着陸するとちょっと変わった形の岩に見えない事も無い。

 母星のあるU37星雲を遠く離れた天の川銀河の一画。褐色矮星ネトロの準惑星であるNT67ht355−34に降り立ったマリエは自律走行型AIアキラ に言った。
「アキラ。もう一度この惑星のデータを教えて」
「OK。マリエ」
アキラはデータを再読する。
「NT67ht355-34。褐色矮星NT67ht355、通称ネトロの第五番目の準惑星。直径2.377km、我らが母星であるエンリルの約1/5。質量は0.2%。組成地質は岩石と氷。氷の主な成分は水、メタン、亜酸化窒素・・。大気濃度はエンリルの1/333。大気の成分は窒素96%、メタン3% 一酸化炭素0.5%・・生物存在の可能性ゼロ。氷の近くに嫌気性のバクテリアを認めるのみ・・・・まだ続けますか?」

マリエは蓄電池兼運搬用ラクダ(ジャメル)の荷を確認しながらそれを聞く。
ラクダの充電ランプが青に変わるのを待ってプラグを抜く。
「重力はどの位?」
「エンリルの1/163」
「うわ!じゃあ、境域ゾーン(リーメス)で靴の加重力をうんと強くせんとあかんね。・・ジャメルの足も・・・・もう!めんどくさ!!」

マリエは立ち上がると背中に電気銃を背負う。腰のベルトのサバイバルナイフを抜くと、その滑らかなウルティムス鋼に指を滑らし、満足げにホルダーに収めた。
首に赤いバンダナを巻く。ゴーグルを持つとジャメルに声を掛けた。
「行くわよ」
ジャメルは大人しくマリエの後を付いて来る。その後ろからアキラ がキャタピラを回しながら付いて来る。
「マリエ。銃もナイフも必要はありません。生物はバクテリアだけです」
アキラは言った。
「これは私のお守りなの。常に一緒なの」
マリエは言った。

リーメスで重力の調整を済ませるとゴーグルを付けた。マイクを調整すると遙か頭上で停止している筈の母船に音声を送る。
「キムラ課長。社員番号AL37 マリエ・オオムラ、只今から地質調査に出発致します」
耳に内蔵されているイヤホンから課長のだみ声が聞こえて来る。
「おお。ご苦労さん。気ぃつけてな。ええもん見付けて来てぇや」
「もう、ばっちりですわ」
マリエはそう返すと「アキラ。シェルのベロを出して」と言った。

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