めっちゃ諦めが悪い。7~そんな事を言われても。

文字数 1,034文字

離れた場所で数人の人が争っている気配がした。
激しい息遣い。唸り声。まるで獣の様に。
祥は隣にいなかった。
私よりもずっと離れていたのだ。

「祥!」
私は叫びそうになる。
銃声が聞こえて私は飛び上がった。
ナイフをすらりと抜いた。そしてライトを点けた。
ライトの向こうで男二人に藻掻きながら連れ去れられる祥が映った。
男達が振り向いた。
「馬鹿!ナツ。逃げろ!」
祥が叫ぶ。

ライトの光に慌てた男達の手が離れる。眩しそうに光を遮る。瞳孔が狭まる。
それが猫の瞳の様に細く金色に光ったのを見た。
その隙に祥が逃げた。
男達が追う。

「祥!」
私は走り出した。
その私の手をぐいと引いた手があった。
ぬるりとした。

私はその手の持ち主にライトを当てた。
血に汚れた顔が目の前に現れて私は悲鳴を上げた。
河合だ。
慌てて腕を払った。
腕がぬるりと滑って抜けた。
腕にべっとりと血の跡が付いた。

私は一歩飛退いて河合と対峙した。
指の先までアドレナリンが満ちている。
全ての神経は戦闘態勢に入って体中の産毛が逆立っている。
サバイバルナイフの切っ先を河合に向けて腰を低くする。
じりじりと間合いを詰める。

河合を睨み付ける。

河合は血で汚れた顔でにやりと笑った。
「さて、・・とうとうお前ひとりになったな。『詰み』だ。ナツちゃん。ゲームオーバー。・・たった一人だ。・・・諦めて素直に殺されてしまえ。死ねばこの悪夢から出られるぞ。死ななければお前は永久にこの」
河合はナイフと私を交互に見ながらそう言った。

「祥は絶対に死なないんだよ!!」
私は河合を遮ってそう叫ぶとライトを捨てて、腰のスパナを左手で素早く抜き取った。
そして河合の横っ面を思いっきりスパナで殴った。
目にも止らぬ速さだった。(自評)
河合はどうと倒れた。
「そんな事を言われても・・」
そう呟いた河合の頭をもう一度ぶん殴った。


河合の体を思い切り蹴飛ばしてライトを拾う。
「そこで死んでろ!」
私は吐き捨てる様にそう言うと車に走った。

車のエンジン音が聞こえた。
それが遠ざかる。

車に向かうと、リュックからキーを出してエンジンを掛ける。
思いっきりアクセルを吹かすとエンジンが咆哮を上げた。ライトを付けて後ろを見る。
シフトをバックに入れて肘を隣のシートに掛ける。藪をバリバリと押し潰し、大木を避けながら小刻みにハンドルを切り返す。
方向が変わった。
ギアをDに入れて両手の汗をデニムで拭う。
朝日が差して来た。有難い。

「祥。待っていて。必ず助けるから」
私はそう言うと逃げる車を目掛けてアクセルを踏み込んだ。













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