はぐれ神 6

文字数 623文字

男は名刺を取り出した。
「私はこの様な者で御座います」
その名刺を手に取る。

「全国稲荷社総取り纏め事務局  狐担当」
名刺に可愛らしいお狐様が印刷してある。私は何の冗談かと思った。
男の厳つい顔と可愛らしい名刺を何度も見比べる。

「こちらに都賀様とおっしゃる禰宜の方はいらっしゃいますか」
男は言った。
男はあくまでも真面目で強面である。
私は答えた。
「生憎ですが、都賀は只今全国行脚の修行に出ております。都賀にどのようなご用件で御座いますか?」

男は「そうですか・・。ちょっと失礼します」と言って、もう一人の男とひそひそ声で打ち合わせを始めた。
私はその様子を見守る。
話が付いたらしい。
男はこちらを向いて言った。
「橘様は事の子細をご存じですね?・・・その・・松の」
私は頷いた。
「実際に見てはいないのですが、禰宜に詳しく報告を受けました。その事件が起きた時には私も社叢を見回っていたのです」
私は言った。
男達は頷いた。
「誰にもお話はされていらっしゃらない・・?」
「勿論で御座います。家内にも言っておりません。都賀にも他言無用ときつく言い渡して置きました」
私は言った。

それに言った所で誰も信用しないだろう。
妄想狂と思われてみんな逃げて行くだろう。
警察に連絡が行くかも知れない。
アブナイ人がいます。と。

「全国稲荷社総取り纏め事務局 狐担当」の二人は深く頷いた。
そして私に少し顔を寄せてこう言った。
「犯人は分かっています。犯人は三尾の白狐です。・・・彼らは『はぐれ神』です」
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